日本文学史近世1
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町人の文学
• 近世文学では、商品経済と印刷技術の著しい発達によって、 文学作品が商品として広範囲に流通するようになり、写本の 時代に貴族しか読めなかった本は多量に出版され、支配層 の専有物ではなく、庶民のものとなっていく。作者層・読者層 が町人まで拡大したことは、近世文学の性格に大きく影響し ている。近世文学の主流は、浮世草子、俳諧・狂歌などの俗 文学であり、現世肯定的な享楽性に富んだ庶民的な文学で ある。 • この時代の文芸思想は義理人情と勧善懲悪などで、追求し た美的な理念は、市民社会が自ら求めたわび・さび・軽み・ いき(粋・通)などであった。思想や論理道徳は為政者の意に 沿う形で鼓吹された場合もあるが、この時代の文学は庶民 の感覚に根づくものであった。
商品化の文学
• 上述の文学作品は商品として広く普及するよ うになったが、その背景には、寺子屋など庶 民教育の普及の充実により、識字率が向上 して読者層が厚くなったこと、そして、印刷技 術の発達によって多くの部数が出版できるよ うになったことがある。そんな土壌に支えられ て、文学作品が商品として成り立つようになっ た。
仮名草子
• 仮名草子とは、主に仮名を用いて書かれた 読み物で、中世の御伽草子の流れを汲み、 啓蒙的な色彩を多量に含む江戸初期の通俗 文学の総称であり、内容は教訓・啓蒙・娯楽 などを目的とする。文学的には未熟であるが、 印刷術の発達によって、広く流布されるように なり、次の浮世草子という庶民の小説を生む ものとなった。
参勤交代
• 江戸幕府の大名統制策の一つであり、原則 として、一年交代で諸大名を江戸と領地と住 居させた制度である。1635年の武家諸法度 改定により制度化された。往復や江戸屋敷の 経費は大名財政を圧迫したが、交通の発達 や文化の全国的交流を促すなど各方面に影 響を与えた。
近世の身分制度
• 近世は宗教が支配した中世社会と違って、儒 教の道徳が支配した社会である。長い戦乱 後に社会を安定にするため、幕府は儒教を 政治の指導原理として選択し、士・農・工・商・ 穢多・非人という厳しい身分制度で人々を縛 り、それに世襲制によって固定化した。
城下町と町人文化の発達
• 城下町とは、戦国時代から江戸時代にかけて、 大名の居城を中心に発達した市街。 • 戦乱が終わって平和な世の中となったために、全国 的に交通網が整備され、各藩も自給自足的な経済 にとどまることはできず、商業が目覚しく発展した。 それとともに、武士の保守的な伝統文化の枠内に は求められない自らの文化的欲求を持つようになっ た。文学を生み出す力が、貴族や武士の手を離れ て民衆の側に移ったことは、近世の文学をそれ以前 の文学と区別する最も大きな特色である。
幕藩体制
• 幕藩体制とは、近世日本の社会体制のあり方で ある。江戸幕府を全ての武士の頂点とし、最高 の統治機関としながらも、各大名がそれぞれの 領地においてある程度独立した統治機構(藩) を形成していることと、米などを現物で納めさ せて年貢とする石高制をその基礎においている ことが特徴である。諸大名を親藩、譜代、外様 に分け、参勤交代や改易によってこれを統制し た。また、士農工商などといわれる身分制度に よって武士を支配階級に位置づけた。
後期の江戸文学
• 文運東漸は単に作者及び出版の中心の地域的移動 というだけでなく、近世小説の質的転換、或いは新 ジャンルの形成を伴っているところに大きな意味があ る。新ジャンルというのは、仮名草紙・浮世草紙、読 本などの戯作と称する一群の小説である。商業の繁 栄した江戸では町人好みの戯作文学がはやり、文学 の質が低俗化していく傾向が著しかった。こうした雰 囲気の中で、与謝蕪村らが蕉風復興に努力したが、 世態・風俗をとらえる風刺・滑稽な川柳と滑稽な趣を 読み込んだ諧謔の狂歌が大いに流行した。
読本
• 絵を中心として、文章で説明を付けた絵本草 紙に対して、読むのを主にした小説。江戸時 代後半期の小説の一種。実際に浮世草子が 衰え始めた18世紀中ごろから現れたのであ る。また、上方を中心としたものを前期読本、 江戸を中心としたものを後期読本と読んでい た。
日本文学史及び作品鑑賞
第十四回
近世文学
時代の区分
1603年の江戸幕府の開設から 1867年の大政奉還まで
近世文学の時代背景
• • • • 幕藩体制 鎖国政策 城下町と町人文化の発達 朱子学の確立
文学の特徴
• 文運東漸 • 町人の文学 • 商品化の文学
近世主要文学ジャンルの代表作品
1、仮名草子 2、浮世草子:井原西鶴『好色一代男』 3、俳諧・紀行:松尾芭蕉 『芭蕉七部集』『奥の細道』 4、川柳:柄井川柳『俳風柳多留』 5、前期読本:上田秋成『雨月物語』 後期読本:滝沢馬琴『南総里見八犬伝』 6、劇文学(浄瑠璃):近松門左衛門『曽根崎心中』
鎖国政策
• 江戸幕府が封建体制を強化するためにキ リスト教禁止を名目として日本人の海外 交通を禁止し、外交・貿易を制限した対 外政策である。ならびに、そこから生ま れた孤立状態を指す。実際には孤立して いるわけではなく、朝鮮、琉球王国、中 国とオランダとは交流があった。
朱子学
• 平和が回復すると、幕府は幕藩体制を維持・ 強化するため、君臣の名分を強調する朱子 学が武家政治の基礎理念として再興され、 江戸幕府の正学とされた。儒学は現実的な 学問であったから、来世に対する信仰の薄く なった江戸時代にはよく適し、現実に即した 生き方や、日常生活に基づく物の考え方が成 熟し、仏教の思想にかわって思想界の王者と なった。
大政奉還
• 慶応2年(1866)、徳川第15代将軍慶喜が幕 府の内憂外患に直面して、翌年(1867)遂に 征夷大将軍の職を辞し、政権を朝廷に奉還し た。これにより、江戸幕府としては265年、鎌 倉幕府から数えて682年をもって武家政治は 終末を告げ、所謂王政復古となった。
文運東漸
• 近世の文学は一般的に前期と後期に分けら れる。前期においては、文化や文学の中心 は京阪を中心とした上方にあったが、宝暦 (1751-1763)・明和(1763-1771)あたりを境として、 文化の中心が江戸に移っていく。この現象を 文運東漸と呼ぶ。
前期の上方文学
• 上方文学期は近世文学の最盛期である。初期はまだ中世的 精神を基盤としたものもあったが、次第に庶民を主体とする ものへと発展していった。 • 俳諧では、京都の松永貞徳を中心として貞門俳諧が行われ、 更に大阪の西山宗因が町人らしい自由奔放な談林俳諧を開 いて民衆の心に浸透させていった。この二つの影響を受けな がらこれを超克した松尾芭蕉は、元禄のころ、平俗の中にも 「さび」・「しをり」・「かるみ」といった美があることを提唱し、蕉 風俳諧を確立した。 • 小説では、室町期の御伽草子、京都を中心に刊行された仮 名草子の後を受け、談林俳諧から出た大阪の井原西鶴が、 当時の町人の世相・生活を活写して、浮世草子と呼ばれる 新しい小説の一体を開拓した。 • 劇作文学では、歌舞伎が度々幕府の禁令を受けながら、こ の期にその基礎を確立した。一方、浄瑠璃では近松門左衛 門の手により、目覚しい成長を遂げた。
浮世草子と好色
• 浮世:仏教的な生活感情から出た「憂き世」と漢語 「浮世(ふせい)」との混交した語。「無情の世」「この 世の中」「享楽の世界」などの意。 • 浮世草子とは、元禄時代(1688-1704)を出発点とし て、明和(1764-1772)のころまで約百年間、上方を 中心としBiblioteka Baidu当代の享楽生活や好色風俗などを積極 的に取り上げる写実的な風俗小説である。 • 好色:平安時代に定着した文学理念、特に『源氏物 語』が爛熟に達せられたが、中世になると、儒学的 な武士道精神と対立する間に、さらに発展された。 時代や道徳などを超越し、純粋な精神を主とした人 文精神となり、即ち、「粋」と「通」によって表現された 哀れや風雅で、人間の愛や自由への追求を表す。