不思议の国のアリス
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不思議の国のアリス1
一人で散歩に出かけたアリスは、川のそばで本を読んでいるお姉さんを見つけると、その横にちょこんと座りました。
でも、何もする事がないのでたいくつです。
「あぁー。
」
アリスは小さなあくびをすると、お姉さんが読んでいる本をのぞいてみました。
その本は歴史の本で、さし絵も会話もありません。
「えーと、エドウィン伯爵(はくしゃく)とマルコ伯爵が・・・。
なんだ、文字ばっかりで絵も会話もないわ。
こんな本なんて、つまらない。
」
アリスはお姉さんに聞こえるように言いましたが、お姉さんは本に夢中でアリスの言葉には答えません。
アリスはしかたなく、一人で遊ぶことを考えました。
「ひなぎくの花で首かざりを作るのはどうかしら。
・・・でも、わざわざ立ちあがってつみに行くのも、何だかめんどくさいなあ。
ああ、何か楽しいことはないかしら?」
その時、赤い目をした白いウサギが、森の中から飛び出してきました。
このあたりにはウサギがたくさんいるので、ウサギが飛び出してきてもめずらしくはありませんが、そのウサギが赤いベストを着ていれば話は別です。
しかもそのウサギはベストのポケットから時計を取り出すと、人間の言葉でこう言ったのです。
「しまった!もうこんな時間だ!大変だ、大変だ。
おくれるかもしれないぞ」
ウサギはポケットに時計をしまうと、あわてて行ってしまいました。
アリスはパッと立ち上がると、自分のほっぺたをつねってみました。
「いたーい!」
どうやら、夢ではなさそうです。
「ベストを着たウサギがポケットから時計を引っぱり出すなんて、生れて初めて見たわ。
それに、あんなに急ぐところを見るとパーティーかもしれない。
わあー、おもしろそう!」
アリスは楽しくなって、夢中でウサギのあとを追いかけました。
ウサギの穴でのひとりごと
アリスが野原を走っていくと、運良く白ウサギに追いつきました。
ウサギは生けがきの下にある、大きなウサギの穴にピョンと飛び込みました。
「ああっ。
ウサギさん、待ってー!」
アリスもそのまま、ウサギの穴に飛び込みました。
どうやってその穴から出て来られるかなんて、アリスはまったく考えていません。
ウサギの穴は深い井戸のようで、アリスはどんどん落ちていきました。
もう、止まろうにも止まりません。
でも大丈夫、アリスの青いスカートがパラシュートのように開いて、ゆっくりゆっくり落ちて行くのだから。
「こんなにゆっくり落ちるのなら、2階から飛び降りても大丈夫ね。
それにしても、どこまで続くのかしら?
ウサギのお家がこんなに深いなんて、知らなかったわ。
わたしの家が、こんな家じゃなくてよかった。
」
アリスがこんな事を考えていると、やがて穴の中が明るくなってきました。
周りを見ると、かべには戸棚や棚が、びっしりはめ込んであります。
本棚の本は難しい本ばかりですが、その中にお姉さんが読んでいた歴史の本もありました。
「お姉さんも、このウサギのお家に来たのかな?」
アリスは下へ落ちながら、途中の戸棚からビンを一つ取りました。
そのビンには《オレンジ・マーマレード》と、レッテルがはってありました。
「わあ、オレンジマーマレードだ。
」
オレンジマーマレードは、アリスの大好物です。
でもビンは空っぽだったので、アリスはがっかりです。
アリスは、そのまま下へ、下へ、下ヘと、どこまでも落ちて行きました。
一体、どこまで落ちて行くのでしょうか?
「もう、何キロぐらい落ちたかしら?
こんなに長く落ちたのだから、きっと地球の中心あたりまで来てるにちがいないわ。
えーと、地球の中心だから、6400キロぐらい落ちたかしら?」
地球の中心までの距離は、アリスが学校で習ったばかりです。
アリスは自分の物知りぶりを得意そうに披露しましたが、今は誰も聞いていないので張り合いがありません。
でも何度もおさらいをするのは、いい勉強になります。
「今が地球の中心だとすると、緯度(いど)と経度(けいど)はどのくらいかしら?」
本当の事を言うと、アリスは緯度や経度の意味をよく知りません。
何となくえらそうな言葉だったので、言っただけです。
アリスのおしゃべりは、まだ続きます。
「このまま落ちていったら、そのうち地球を突き抜けてしまうんじゃないかしら?
地球のうら側にいる人たちなら、きっと逆立ちをして歩いているから、わたしも逆立ちの練習をしなくっちゃ!」
アリスの知識も、この程度です。
周りに聞いている人がいなくて、よかったですね。
「そうだわ。
今夜はあたしがいなくて、ダイナがさびしがるかも。
」
ダイナというのは、アリスが可愛がっているネコのことです。
「ダイナも、あたしと一緒に落ちていたらいいのに。
ああでも、空中ではネズミがいないかもしれないわね。
だけど空中なら、コウモリがいるかも。
コウモリはネズミによくにているけど、ネコはコウモリを食べるかしら?」
長い時間落ちていたので、アリスはそろそろ眠くなってきました。
そして夢でも見ているような気持ちで、おしゃべりを続けました。
「ネコは、コウモリを食べるのかしら?
ネズミとコウモリはにているから、きっとコウモリはネコを食べるわね。
・・・あれ?
あたし今、ネコとコウモリをまちがえたかしら?
それにしても、なんだかとってもねむたいわ。
」
アリスは目をつぶると、夢の中に現れたダイナにたずねました。
「ねえ、ダイナ。
あなた、コウモリを食べたことがあるの?」
その時、いきなり、
ドスン!
と、アリスはかれ葉の山の上にぶつかりました。
ようやく落ちるのが、終わったのです。
ドリンクミー《drink me》
かれ葉の上に落ちたアリスは、少しもけがをしなかったのですぐに立ち上がりました。
アリスの目の前に、また長い穴が続いています。
ふと見ると、あの白ウサギが穴の先をどんどん急いで行くのが見えました。
さあ、ぐずぐずしているひまはありません。
「ウサギさん、待ってー!」
アリスはあわてて、ウサギの後を追いかけました。
ウサギはベストから、時計を取り出しました。
「わあ、大変だ!こんなに遅くなってしまったぞ!」
ウサギがかどを曲がったので、アリスも続いてかどを曲がりました。
ところがウサギの姿は、もうどこにも見えません。
アリスはいつの間にか、天井の低い広間にいました。
天井からはランプがぶら下がっていて、広間を明るくてらしています。
広間の四方のかべには、古い木のドアがあります。
「このドアの、どれかに入ったのかしら?」
アリスはドアに手を伸ばしましたが、どのドアもカギがかかっていて開きません。
「どこかに、カギはないかしら?」
アリスが周りを見ると、ふいに三本足の小さなテーブルが現れました。
そのテーブルは全部がガラスで出来ていて、上には小さな小さな金のカギが一本のっています。
「このカギで、ドアのどれかが開くのかもしれないわね」
アリスはすぐに、ためしてみました。
「うーん、だめ。
・・・こっちもだめ。
・・・こっちもだめだし、これもだめだわ」どのドアのカギも、大きすぎたり小さすぎたりして合いません。
ところがもう一度部屋を見渡すと、低いカーテンが見つかりました。
「あら、こんなカーテンなんてあったかしら?」
アリスがカーテンをまくると、高さ四十センチほどの小さなドアがあります。
「もしかして、これかな?」
アリスが小さな金のカギを、その小さなドアに差し込んでみると、
カチャリ!
「わあ、うれしい」
カギはぴったり合って、小さなドアが開きました。
するとその向こうに、小さなろうかがあります。
アリスが四つんばいになってろうかをのぞきこむと、その先にお庭が見えます。
「すてきなお庭」
アリスはその美しい花ぞのやふん水のあるお庭を、散歩してみたくてたまりません。
ところがその小さなドアは、アリスの頭さえ入りません。
「たとえ頭が入っても、体が通らないから無理だわ。
お父さんが持っている望遠鏡みたいに、体を折りたためるといいんだけどなあ」
アリスは仕方なく、さっきのテーブルのところに戻りました。
すると今度は、テーブルの上に小さなビンが一つのっていました。
「あれ?さっきは、ビンなんてなかったけど」
ビンには、小さな札がむすびつけてありました。
「なにか書いてあるわ。
えーと《drink me》。
『わたしをお飲みなさい』か。
うまいこと書いてあるわね」
アリスは思い切って、そのビンの中の液体をちょっとだけなめてみました。
「わあ、すごくおいしいわ。
まるでサクランボ入りのパイと、プリンとパイナップルと、七面鳥の丸焼きと、ミルクキャンデーと、バターをぬったトーストパンの味を混ぜ合わせたみたい」なかなか想像しにくい味ですが、気に入ったアリスはビンの中身をぐっと飲み干しました。
すると不思議なことに、アリスの体がみるみるちぢんで、25センチほどになってしまったのです。
「これであの小さなドアを通って、美しいお庭に入れるわ」
アリスはにっこりほほえむと、すぐに小さなドアへ行きました。
イートミー《eat me》
小さなドアへ向かったアリスですが、ドアのところまで行った時、あの小さな金のカギを忘れてきたのに気がつきました。
そこでカギを取りにテーブルへ戻ったのですが、小さくなったアリスではテーブルの上に手が届きません。
ガラスのテーブルなのでカギは下からでもよく見えるのですが、ガラスのテーブルはつるつるすべって、よじ登ろうとしてもだめでした。
「だめだわ。
どうしても登れない」
アリスは悲しくなりましたが、ここで泣くようなアリスではありません。
「今は泣いていても、何の役にも立たないわ。
それより、どこかに何かないかしら?
・・・あら?」
アリスはテーブルの下に、小さなガラスの箱があるのに気がつきました。
「さっきまでなかったのに。
・・・まあ、いいか」
開けてみると、中には小さなクッキーが入っていました。
小さなクッキーには小さな小さな干しぶどうで、《eat me》と書いてあります。
「《eat me》。
『わたしをお食べなさい』か。
食べると、どうなるのかしら?
今度は、大きくなるのかしら?
それとも、もっと小さくなるのかしら?
・・・まあいいわ。
食べて大きくなれば、テーブルのカギに手が届くし。
もっと小さくなれば、あのドアの下からもぐり込めるわ」
干しぶどうはちょっと苦手ですが、アリスはがまんしてクッキーを食べました。
すると今度は、アリスの体がどんどん大きくなっていったのです。
もとの身長を通りこして、アリスはまだまだ大きくなります。
「あれあれ?
今度は世界一大きな望遠鏡みたいに、あたしが伸びていくわ。
足も、どんどん離れていく。
あたしの足さん、さようなら」
アリスが自分の足にさよならを言った時、ようやく大きくなるのが止まりました。
「よかった。
足にはもう会えないかと思った」
アリスはテーブルの上の金のカギを取ると、急いでドアのところへ行きました。
でも今のアリスは、3メートルをこえる大女です。
体が大きすぎてドアを通りぬけるどころか、横に寝ころんで片目でお庭をのぞくのがやっとです。
アリスは座り込むと、また悲しくなって涙を一粒こぼしました。
涙の池
アリスが一粒涙をこぼすと、涙は次々とあふれてきました。
「あれ、どうしたのかしら?
涙が、止まらないわ。
こら、アリス!
大きな体をして、めそめそ泣いていたら恥ずかしいわよ」
アリスは自分に言い聞かせましたが、涙は少しも止まりません。
それどころかアリスの涙がどんどんたまって、広間は大きな池になってしまいました。
今の深さは10センチぐらいですが、涙が止まらないので池はどんどん深くなってい
きます。
アリスが涙を止めようと目を押さえたり、息を止めたり、鼻をつまんだりしていると、
遠くの方からパタパタいう足音が聞こえてきました。
アリスが足音の方を見ると、そこに現れたのはあの白ウサギです。
ウサギはいつの間に着替えたのか、赤いベストの下にはすてきな白いシャツを着て、左手には白いヤギの皮の手ぶくろを持ち、もう片方の手には大きなせんすを持ってい
ました。
ウサギは大あわてで走りながら、ぶつぶつ言っています。
「ああ、急がないと。
女王さまをお待たせしたら、きっと怒られるだろうなあ」
アリスはウサギが近くまで来ると、おそるおそる低い声で呼びかけました。
本当は普通の声で呼びかけたつもりですが、体が大きくなったアリスの声は男の人のように低い声でした。
「あのう、ウサギさん。
すみませんけど」
「うひょ!」
アリスの声にびっくりしたウサギは、持っていた白い手ぶくろとせんすをその場に落として、いちもくさんに暗がりの中へ消えてしまいました。
「ああ、行っちゃった」
アリスは、ウサギが落としていったせんすと手ぶくろを拾いました。
広間が暑くなってきたので、アリスはせんすで自分をあおぎながらおしゃべりをしました。
「今日は、変な事ばかりね。
昨日までは、なんでもなかったのに。
あたし、ずっとこの広間にいるのかな?
大人になっても、ずっと、ずっと。
ここにいれば勉強をしなくてもいいけど、お友だちにも会えないわ。
せめて、ダイナがいてくれたらな」
おしゃべりをしていたアリスは、ふと自分の手を見てびっくりしました。
おしゃベりをしているうちに、いつの間にかウサギの小さな白い手ぶくろの片方を手にはめていたのです。
「どうして、この手ぶくろがはめられたのかしら?
手ぶくろは、とっても小さかったのに。
手ぶくろが、大きくなったのかしら?
・・・いいえ、そうじゃなくて、あたしがまた小さくなっているんだわ」
アリスは立ち上がってテーブルのそばに行くと、テーブルと背比べをしました。
アリスの体はテーブルよりも小さくなっているので、アリスの身長は60センチぐらいしかありません。
しかも、まだまだ小さくなっていくのです。
アリスはすぐに、小さくなっていくのはせんすをあおいでいるせいだとわかりました。
「きゃっ!」
アリスはあわてて、せんすを放り投げました。
するとアリスの体は、小さくなるのが止まりました。
「あぶないとこだったわ。
あのままあおいでいたら、消えてなくなっていたかも。
・・・きゃっ!」
安心したアリスは、うっかり足を滑らせて塩からい水の中にもぐってしまいました。
ザブン!
はじめアリスは、海の中に落っこちたんだと思いました。
でも本当は、自分が流した涙の池に落ち込んだのだとわかりました。
「こんなことなら、あんなに泣くんじゃなかったわ」
アリスは涙の池を泳ぎながら、出口を探しました。
「自分の涙を泳ぐなんて、ずいぶんと変わった経験だわ。
家に帰ったら、友だちに自慢しなくっちゃ。
でも今日は、本当に変わったことばかり。
・・・友だち、信じてくれるかな?」
その時、池の向こうで何か大きな物がパシャパシャと泳いでいるのが見えました。
ネズミはネコが大きらい
「何だろう?あの大きさだと、カバかしら?」
アリスが泳いで近づくと、それはただのネズミでした。
小さくなっていたので、ネズミをカバとかんちがいしたのです。
(あのネズミ、お話ができるかしら?)
ウサギが人間の言葉をしゃべったのだから、ネズミだってしゃべれるかもしれません。
アリスはネズミに、声をかけました。
「ねえ、ネズミさん。
あなた、この池の出口を知らない?」
「・・・・・・」
ネズミはアリスを見てけげんな顔をしましたが、何も言いません。
「そうか。
きっと英語がわからないんだわ。
ひょっとしたら、ウィリアム征服王と一緒にイギリスにやって来たフランスのネズミかもしれないわ」
そこでアリスは、学校で習ったばかりのフランス語で話しかけました。
「わたしのネコは、どこにいますか?」
今の言葉は、フランス語の教科書に出ていた文章です。
それを聞いたネズミは、急に怖そうな顔になってブルブルと震えました。
「あっ、ごめんなさい。
あなたたちネズミは、ネコが大きらいだったわね。
うっかりしてたわ」
するとネズミが、大声で文句を言いました。
「決まっているじゃないか!
きみがぼくだったら、ネコが大好きだと言うと思うか!
ネコはぼくたちを、食べるんだよ!」
「いいえ、大好きだとは、たぶん言えないわ」
アリスはネズミに、なだめるように言いました。
「もう、怒らないでね。
・・・でも、家のネコのダイナを見せてあげたいわ。
ダイナはとってもかわいくて、とってもおとなしいのよ。
暖炉のそばにお行儀よく座って、手をなめたり、顔をあらったり。
それにダイナを抱くと、ふわふわして気持ちがいいの。
それからダイナは、ネズミをとるのがとっても上手なの。
あっ!ごめんなさい」
アリスは謝りましたが、ネズミは体中の毛を逆立てて怒っています。
「あらやだ、もうあたしたち、ダイナのお話しはやめましょうね」
「あたしたちだって?」
ネズミは、尻尾の先までブルブル震わせて叫びました。
「それではまるで、ぼくがネコの話をしたがってるみたいじゃないか!
ネズミは、むかしからネコが大きらいなんだよ!
もう二度と、ネコの話は聞きたくないよ!」
「ごめんなさい。
本当に、ごめんなさい。
もうネコの話はしないから、だから怒らないで」
アリスが必死で謝ると、きげんをなおしたネズミは池の向こうを尻尾で指さして言いました。
「岸はあっちさ。
この方向にまっすぐ行けば、池から出られるよ。
じゃあダイナに、ネズミをいじめないように言っておくれよ」
ネズミはそのまま、反対方向に泳いでいきました。
白ウサギの家
ネズミに教えてもらった方向へ泳いで行くと、すぐに岸がありました。
岸にあがったアリスが服を脱いで乾かしていると、パタパタと足音を立てながらあの白ウサギが現れました。
白ウサギはちょこちょこ走りながら何かを探している様に、きょろきょろとあたりを見まわしています。
服を着たアリスがウサギに近づくと、ウサギが何かをぶつぶつ言っているのが聞こえてきました。
「困ったなあ。
弱ったなあ。
どうしよう?
女王さまは、きっとぼくを死刑にしてしまうぞ。
いったい、どこに落としたんだろう?」
それを聞いて、アリスにはすぐに見当がつきました。
ウサギが探しているのは、あのせんすと白い皮の手ぶくろです。
アリスはスカートのポケットを探してみましたが、せんすと白い皮の手ぶくろはありません。
「そうか。
せんすはあの広間で放り投げてしまったし、手ぶくろは泳いでいる間に脱げてしまったんだわ」
その時、ウサギがアリスを見つけて怒った声で言いました。
「おーい、メアリアン。
こんなところで、何をしてるんだ?
すぐに家へ行って、手ぶくろとせんすを取ってくるんだ」
「えっ?家って」
「おいおい、家の場所も忘れたのか?
家は、この先をまっすぐだ。
手ぶくろとせんすは2階にあるから、早く取ってくるんだ」
アリスはウサギに言われるまま、ウサギが指さした方へかけ出しました。
「あのウサギ、あたしを自分のお手伝いさんだとかんちがいしているんだわ。
たしかにこの姿は、お手伝いさんに見えないこともないわね」
やがてアリスは、きれいな小さい家の前に来ました。
家の門にはピカピカに磨かれたしんちゅうの表札が出ていて、そこには《ウサギの家》と書いてありました。
「あっ、ここね」
ドアにはカギがかかっていなかったので、アリスは2階へ上がっていきました。
アリスが2階の部屋に入ると窓ぎわにテーブルがあり、そのテーブルの上に、せんすと小さな白い皮の手ぶくろがありました。
それらを取って部屋を出ようとした時、カガミのそばに小さなビンがあるのに気づきました。
そのビンには《drink me》『わたしをお飲みなさい』とは書かれてありませんが、あの広間にあった《drink me》のビンと同じビンです。
「きっと、これを飲めば何かが起こるわね。
小さくなるか大きくなるかわからないけど、ちょっとなめてみようかな。
こんなおチビちゃんは、もうあきちゃったもんね」
アリスはそう言ってビンのせんを抜くと、中の液体をちょっぴりなめてみました。
すると思った通り、アリスの小さな体がどんどん大きくなって、頭が天井にぶつかってしまいました。
「あいた!この薬は、ちょっと強すぎるわ」
まだまだ大きくなるので、アリスは首の骨を折らないように腰をかがめなければなりません。
「もういいわ。
これ以上、大きくならないで。
このままじゃ、ドアから出られないわ」
でもアリスの体は、まだまだ大きくなります。
部屋いっぱいに大きくなったアリスは、仕方なく窓から腕を突き出して足を煙突に突っ込みました。
「あたし、どうなるのかしら?」
するとようやく、魔法の薬の効き目が止まりました。
これ以上は大きくなりませんが、このままでは部屋から出ることが出来ません。
アリスはまた、悲しくなってきました。
「こんな事になるなら、家にいた方がよかったわ。
家にいれば、大きくなったり小さくなったりする事もないし、ウサギにこき使われる事もないんだもん。
そうと知っていれば、あのウサギの穴をおりて来なかったのに。
・・・でも、こんな風におとぎの世界で暮らすのも、変わっていて面白いかもしれないわ」
アリスはきゅうくつそうに、自分の大きな体をながめました。
「そう、おとぎの世界よ。
きっとあたし、おとぎの世界に入り込んでいるんだわ。
もしかすると、あたしの事を書いた本が学校の図書室にあるかも。
そうよ、あってもいいはずだわ。
もしなかっても、あたしがこのお話しを書くわ。
そうそう、おとぎの世界にいるなら、このままいつまでも年を取らないかも。
あたし、おばあさんにならなくていいんだわ。
ああでも、そうなったらいつまでもお勉強をさせられるわね。
そんなの、いやだなあ。
・・・まあ、ばかねえ、アリス。
こんなところで、どうやってお勉強をするというの?
あなた一人の体も入らない小さな部屋に、教科書なんか置けないじゃないの」
こんな風にアリスが一人でお話しをしていると、外の方から声が聞こえてきました。
火をつけろ
「メアリアン。
メアリアン。
早く手ぶくろを持って来ないか。
いったい、何をしているんだ?」
その声は、パタパタと小さな足音をさせて階段をあがってきました。
声の主は、あの白ウサギです。
ウサギはアリスのいる部屋の前に来ると、ドアを開けようとしました。
でもドアは、内側へ開くようになっています。
内側では大きくなったアリスのひじがドアを押しているので、いくら開けようとしてもびくともしません。
「だめだ、どうしても入れないぞ」
ウサギは一度外へ出ると、大声で何かを呼びました。
「パット!パット!どこにいるんだ?」
するとかきねの向こうから、庭師のかっこうをしたトカゲが現れました。
「だんなさま、そんな大声を出さなくても、ここにいますよ。
庭で、リンゴを掘っていたんですよ」
「そうか、それはご苦労さん。
ああそれより、家の中に何かがいるんだが、ドアが開かないんだ。
手伝ってくれ」
「家の中って、だんなさま、あの窓から出ている腕のことですか?」
「窓から腕?・・・ああっ!あれは何だ?!窓から大きな腕が出ているぞ!」
ウサギはようやく、窓から出ているアリスの腕に気づきました。
「なっ、何だってあんな物が、窓から出ているんだ!」
「あっしに言われても、知りませんよ」
「そうか、まあいい。
それよりも、どうすればあいつを追い出せるんだ?」
「そうですね。
家に火をつければ、びっくりして逃げ出すんじゃないですか?」
「家に火をつけるだと!?わたしの家だからといって、そんな簡単に言うな」
「じゃあ、どうします?ほかに方法がありますか?」
「うーん。
仕方ない、家に火をつけて追い出そう」
それを聞いたアリスは、びっくりです。
「じょうだんでしょう!そんなことをされたら、あたし焼け死んでしまうわ!えーと、
何かないかしら」
アリスがせまい部屋を見渡すと、床にとても小さなクッキーが落ちていました。
まあ、今の大きなアリスから見れば、どんな食べ物も小さく見えるのですが。
「このクッキーを食べたら、きっと体の大きさが変わるわ。
小さくなったら家から出られるし、たとえ大きくなっても家がこわれて出られるはずよ」
そこでアリスは床に落ちているクッキーをあごで近くに寄せると、ペロリと飲み込みました。
するとうれしい事に、アリスの体がすぐに縮み始めたのです。
そしてドアから出られるくらいの大きさになると、アリスはすぐに家から飛び出しました。
外に出ると白ウサギとトカゲの庭師が、家に火をつけようとしています。
飛び出したアリスには、まだ気づいていません。
アリスはその場に手ぶくろとせんすを置くと、深い森の中へと逃げ込みました。
水キセルの毛虫
森に逃げ込んだアリスの体は、さっき食べたクッキーのせいで、まだまだ小さくなっていきます。
そして花ぐらいの大きさになったところで、小さくなるのが止まりました。
「今度は、小さくなり過ぎたわ。
なかなか、元の大きさには戻れないわね。
体の大きさを変えるには、また何かを食べるか飲むかしないといけないけど」
アリスは、あたりの花や草を見まわしました。
しかし周りには、食べたり飲んだり出来る物が何も見つかりません。
アリスの目の前に、アリスと同じくらいの大きさキノコが生えています。
「上に登れば、何か見つかるかも」
アリスはつま先立ちになって、キノコの上をのぞいてみました。
するとアリスの目が、大きな青い毛虫の目とバッタリ出会いました。
毛虫はキノコの上で腕組みをしながら、長い水キセルを気持ちよさそうふかしています。
毛虫とアリスはしばらくだまったまま、にらめっこをしていました。
それでもとうとう毛虫は口から水キセルを取って、だるそうな声で言いました。
「お前は、だれだ?」
初めて会った相手に、こんな言い方をされると気やすく話が出来そうもありません。
アリスは、きまりが悪くなりながらも答えました。
「それが、あたしにもよくわからないんです。
でも、けさ起きたときは、自分があたしだってことがわかっていたんです。
それからあと、何度もあたしは、色々なあたしに変わったらしいんです」
「いったい、何の事を言っているんだね?分かるように説明しなさい」
「それが、簡単に説明出来そうもないんです。
とにかく、今のあたしはあたしじゃないんです。
わかるでしょう?」
「わからんね。
」
「一日のうちに何度も大きさが変わったんで、頭がこんがらがってしまってるんです。
あなたもそのうちにさなぎに変わって、いつかはチョウチョウになるんでしょう?
自分の姿が変わってしまえば、あなたもあたしの気持ちがわかると思うわ」
「いいや、そんな事にはならないよ」
「ならないって、チョウチョウに?
それとも、気持ちが?
気持ちなら、あなたとあたしの性格は、まるで違うのかもしれないわね」
「ところで、お前はだれだい?」
毛虫は、また話を元に戻しました。
アリスはなんだか腹が立って、毛虫に言いました。
「人が誰かとたずねる前に、まずあなたから先に名のるべきだと思うわ」
「それは、なぜだね?」
「えっ?それは・・・」
アリスは、ぐっと詰まってしまいました。
なぜ先に名のらないといけないのか、アリスにもわかりません。
「もういいわ。
じゃあ、さようなら」
アリスは馬鹿馬鹿しくなって、さっさと行きかけました。
すると毛虫が、後ろから呼び止めました。
「これ、かんしゃくを起こすんじゃないよ。
かんしゃくを起こすと、大事なことを聞きそび
れるよ」
「かんしゃく?!」
確かにアリスはかんしゃくを起こしていたので、ここはぐっとがまんしてたずねました。
「いいわ。
最後までつきあってあげるから、大事なことを教えて」
すると毛虫はしばらくの間、何も言わずに水キセルをプカリプカリとふかしていました。
そしてやっと水キセルから口をはなすと、アリスに言いました。
「お前は何度も大きさが変わったと言っていたが、どのくらいの大きさが本当の大きさだね?」
「それが、本当の大きさが思い出せないんです。
なにしろ、何度も何度も大きさが変わったから」
「では、どれくらいの大きさになりたいのだね?」
「べつに、どれくらいの大きさって事はないけど。
でも出来たら、もうちょっと大きくなりたいわ。
7センチのおチビちゃんじゃ、いくらなんだってひどすぎるわ」
「どうして?7センチは、実にけっこうな大きさじゃないか」
毛虫は怒った声で言って、まっすぐに立って見せました。
毛虫の大きさはちょうど7センチで、自分が7センチであることに誇りを持っていたのです。
アリスは、少しあわれっぽい声で言いました。
「そんな事を言ったって、あたし、こんな高さにはまだなれてないのよ」
でも心の中では、
(ここの人たち、みんなすぐに怒り出すのね)
と、思いました。
「まあ、そのうちになれてくると思うが、大きさを変えたいのなら、大事なことを教えてやろう」
毛虫はそう言って、また水キセルを口にくわえると、プカリプカリとふかしはじめました。
アリスは毛虫の方から口を開くまで、しんぼう強く待ちました。
やがて毛虫は水キセルから口をはなすと、二種類のキノコを指さして言いました。
「一方は、お前を大きくしてくれる。
もう一方は、お前を小さくしてくれる」
「あのキノコを食べれば、体の大きさが変わるの?大きくなるのは、どっちのキノコ?」
「さあね」
毛虫はそういうと、どこかへ行ってしまいました。
ヘビになったアリス?
アリスはしばらく、二つのキノコをながめていました。
「どっちが、どっちなのかしら?」
いくら考えても、どっちが大きくなるキノコで、どっちが小さくなるキノコか分かりません。
そこでアリスは二つのキノコを片手づつに取ると、とりあえず右手の方をちょっぴりかじってみました。
するとたちまち、アリスは高いところから飛び降りたような気持ちになりました。
アリスの小さな体が、ものすごい勢いで小さくなっていくのです。
アリスが食べたのは、小さくなるキノコだったのです。
さあ、ぐずぐずしているひまはありません。
このまま小さくなれば、アリスは消えてしまいます。
アリスはあわてて、左手のキノコをかじりました。
すると見ている景色がどんどん下へ流れて、気がつくと目の前には青空が広がっていました。
アリスの体は、森の木よりも大きくなったのです。
「まあ、何てよく効くキノコでしょう」
アリスがびっくりしていると、何かがアリスの耳元でさわぎました。
見てみるとそれはハトで、ハトはアリスの頭の周りを飛ぶと、アリスの頭や耳をくちばしで突きながら言いました。
「ヘビよ!ヘビだわ!」
「違うわ。
あたしは、ヘビじゃないわよ」
「ヘビに決まっている!
どうせあんたも、あたしのタマゴを食べるんだろう!
せっかく森の中で一番高い木を選んで巣を作ったのに、その木よりも大きなヘビが現れるなんて!」
ハトはそう言って、またアリスの頭を突きました。
「いたい!あたしはヘビじゃないわ!本当よ!」
「なら、タマゴを食べた事は、一度もないんだね」
「それは・・・」
アリスは今日の朝ご飯に、タマゴ焼きを食べたことを思い出しました。
「それは、タマゴは今日も食べたけど」
「ほらやっぱり!あんたはヘビよ!ヘビだー!ヘビよー!」
ハトは再び、アリスの頭を突きます。
「もう、やめてよ!」
アリスは仕方なく、右手の小さくなるキノコを食べることにしました。
でも食べ過ぎて小さくなりすぎても困るので、なめるように少しずつ食べることにしました。
チェシャネコ
大きくなるキノコと小さくなるキノコを交互になめながら、ちょうどいい大きさになったアリスは森の中を進みました。
すると2、3メートル先の木の枝に、ピンクと紫のしまもようのネコが眠っていました。
「あら、ネコだわ。
ちょっと大きいけど、ダイナのお友だちになるかしら?」
ネコ好きのアリスはしまもようのネコに近づくと、ネコに声をかけました。
「ネコちゃん。
あなた、わたしの言葉がわかる?わかるなら、こっちを向いて」
ウサギやネズミなら、『ウサギさん』『ネズミさん』と言うのに、ネコだと『ネコちゃん』と呼びます。
するとネコはアリスの方を向いて、大きな口を開けるとニヤリと笑いました。
その笑った口の中には、数え切れないほどたくさんの歯があります。
それを見てアリスは、
(あの口でかまれたら、ネズミだけでなく人間でもやっつけられるわ)
と、思いました。
そして用心しながら、ネコにたずねました。
「よかった。
あなたも、人間の言葉が分かるのね。
ねえネコちゃん、これからあたしはどっちへ行ったらいいか教えてくださらない?」するとネコは、いっそう大きく口を開けて言いました。
「わたしを呼ぶのなら、チェシャネコと呼んでくれないか?」
「チェシャネコ?」
「そう、チェシャネコとは、いつもニヤニヤ笑っている人をさす言葉さ」
そう言ってチェシャネコは、また大きな口を開けて笑いました。
確かに、このネコにはぴったりの名前です。
「わかったわ、チェシャネコちゃん。
それで、あたしはどっちへ行ったらいいか、教えてくださらない?」
「そりゃあ、あんたが行きたいと思うところしだいだよ。
どこへ行きたいんだい?」
「どこって、べつに、どこって事もないけど」
「それなら、どこへ行こうとかまわんじゃないか」
「ええ、どこかに行きつきさえすればね」
「どこへ行っても、どこかに行きつくに決まってるさ。
どんどん歩いて行きさえすればね」
確かにその通りだと、アリスは思いました。
そこで今度は、別の事を聞きました。
「このあたりは、どういう人が住んでいるんですか?」
「それならあっちへ行くと」
ネコは尻尾で、右を指しました。
「ぼうし屋が住んでいるよ」
今度は尻尾で、左を指しました。
「それからこっちへ行くと、三月ウサギが住んでいるよ。
まあ、あんたの好きな方をたずねてごらん。
もっとも、どっちも気ちがいだがね」
「そんな頭の変な人のところへなんか、行きたくないわ」
「しょうがないよ。
何しろここにいるは、みんな気ちがいなんだからね。
わたしも気ちがいだし、あんたも気ちがいだよ」
「あたしは違うわ。
どうして、そう思うのよ?」
「決まっているだろう。
気ちがいでなければ、こんなところに来るわけがないさ」
そんな事では何の証拠にもならないと思いましたが、アリスは言葉を続けました。
「それじゃ、あなたは自分の頭がおかしいと、どうしておもうの?今まで出会った中で、あなたが一番まともに思うけど?」
「まず第一に、犬は気ちがいじゃない。
それは、あんたもみとめるだろう?」
「そうね。
犬は頭がいいわ」
「さて、その頭のいい犬は怒った時にはうなるし、うれしい時には尻尾をふる。
ところがわたしはうれしい時にうなるし、怒った時には尻尾をふる。
だからわたしは、気ちがいなんだ」
「あら、ネコはうなるんじゃなくて、のどをゴロゴロと鳴らすのよ。
ダイナがそうだもの」「なんとでも、好きに言うがいいさ。
それよりあんたは、女王さまには会ったかい?」「いいえ。
会っていないわ」
「そうかい、なら教えておこう。
女王さまには気をつけるんだよ。
何でも自分の思い通りになると思っているからね」
チェシャネコはそう言って、煙のように姿を消しました。
気ちがいのお茶会
チェシャネコが消えてしまったあと、アリスは左の方へ向かいました。
「ぼうし屋には何度も行った事があるけど、三月ウサギと言うのは初めてだわ」
それからしばらくして、三月ウサギの家が見えてきました。
表札はありませんが、えんとつがウサギの耳みたいなかっこうで、屋根は毛皮でふ
いてあります。
きっと、この家に間違いありません。
家の前にはテーブルが出してあって、三月ウサギとぼうし屋がお茶を飲んでいました。
三月ウサギは、おとぼけた感じのウサギです。
ぼうし屋はちょっと神経質そうなおじいさんで、頭に背の高いぼうしをのせています。
そして三月ウサギとぼうし屋のほかにも、ねむっているネズミがいました。
三月ウサギとぼうし屋は、ねむっているネズミにひじをついて、その頭ごしにおしゃ
べりをしています。
「あんな事されて、ネズミも楽じゃないわね。
でも、ねむっているから気にならないのか
もしれないわ」
アリスが近づくと、それに気づいた三月ウサギが言いました。
「だめだめ、もうテーブルは空いてないよ。
定員いっぱいだよ」
アリスが見たところ、テーブルには20人は座れそうです。
「あら、いくらでも空いてるじゃないの」
アリスはプンプン怒って、テーブルのはしにある大きなひじかけいすに座りました。
すると三月ウサギが、アリスに手を差し出しました。
「さあ、お嬢さん。
ぶどう酒でもどうぞ」
アリスは三月ウサギの手を見ましたが、ぶどう酒どころか何も持っていません。
「ぶどう酒なんか、どこにも見えないわ」
「当然さ。
ぶどう酒なんかないもの」
「まあ、ない物をすすめるなんて、失礼じゃないの!」
「そっちこそ。
招待されもしないのに来るなんて、失礼じゃないか?」
確かに、その通りです。
「でも、テーブルには大勢の人のしたくがしてあるでしょう。
三人分どころじゃないわ」アリスが言うと、さっきからめずらしそうにアリスを見ていたぼうし屋が、はじめて口を開きました。
「カラスが机に似ているのは、なぜだい?」
「あら、なぞなぞね。
そのなぞなぞなら、とけそうな気がするわ」
アリスはカラスと机を思い出して色々と考えてみましたが、どうもいい答えがうかびません。
するとぼうし屋が、アリスに尋ねました。
「今日は、何日ですかね?」
アリスは、ちょっと考えてから言いました。
「4日です」
「なんと!それでは時計が2日も違っているぞ」
ぼうし屋はためいきをつくと、三月ウサギに文句を言いました。
「だからバターは機械によくないって、お前に言ったじゃないか」
すると三月ウサギは、おずおずと答えました。
「だってあれは、一番上等のバターだったんだよ」
「そりゃあ、わかっているさ。
それならきっと、パンくずまで一緒に入ったんだよ」
「それよりも、パン切りナイフでぬったのが、いけなかったんじゃないか?」
「いいや、マスタードを入れてないから大丈夫さ」
「じゃあ、ハチミツは?」
「入れてないよ。
その代わりに砂糖を入れたから」
「それだ!砂糖を入れたから、時計が止まったんだ」
「でも砂糖を入れた後、ちゃんと紅茶で洗ったよ」
「うーん。
それなら砂糖は関係ないか」
横で聞いていたアリスには、何を言っているのかさっぱりわかりません。
(チェシャネコちゃんが言っていたように、やっぱりこの二人は頭が変だわ)
さっきのなぞなぞの答えが気になりましたが、アリスはそっとその場を離れました。
♪バラの花を、赤くぬろうよ
再び森の中へ入ったアリスは、一本の木にドアがついていて、中へ入れるようになっているのに気がつきました。
「木が入口だなんて、ずいぶんと変わっているわね。
でも今日は本当に変わった事ばかりだから、気にしてはだめね。
さあ、入ってみましょう」
アリスは木についているドアを開けて、中へ入りました。
するとそこはアリスが散歩をしたいと思っていた、あのすてきなお庭ではありませんか。
「まあ、ようやくここに来られたわ。
美しい花ぞのに、すずしいふん水。
とってもすてきだわ」
アリスが花ぞのをながめながらふんの水で手を冷やしていると、どこからか男の人の歌声が聞こえてきます。
♪バラの花を、赤くぬろうよ
♪急いで、ペンキで、うまくぬろうよ
♪バラの花を、赤くぬろうよ
「何の歌だろう?」
気になったアリスは、歌声の方へ行ってみました。
するとトランプ姿の三人が、赤いペンキで白いバラを赤くぬっていたのです。
そのトランプ姿の三人は、クラブのエースとクラブの2とクラブの3でした。
一本のバラの木の花をぬりおえた三人は、別の木のバラをぬりはじめました。
♪バラの花を、赤くぬろうよ
♪急いで、ペンキで、うまくぬろうよ
♪バラの花を、赤くぬろうよ
たのしい歌だったので、ついアリスも歌いながらたずねました。
♪どうして、ぬるのよ
♪白いバラを
それを聞いた三人は、バラをぬる手を止めてアリスの方を見ました。
アリスは三人に、もう一度たずねました。
「あの、せっかくきれいな白いバラが咲いているのに、どうして赤くぬるのですか?」
三人はお互いの顔を見合わせると、クラブの3が答えました。
「どうしてかって?それは、わしらは間違って白いバラを植えてしまったからさ」
「白いバラだと、どうしていけないの?」
アリスの言葉に、三人は歌でこたえました。
♪女王さまは、赤がお好き
♪白バラ、植えたら
♪殺されちゃう
「まあ、それは大変」
「そうだろう」
♪だから、こうして
♪赤くぬるのさ
そう言って、三人はまたバラをぬりはじめました。
「じゃあ、あたしも手伝ってあげる」
アリスは赤いペンキとハケを持つと、三人と一緒に歌いながら白いバラを赤くぬりはじめました。
♪バラの花を、赤くぬろうよ
♪急いで、ペンキで、うまくぬろうよ
♪バラの花を、赤くぬろうよ
その時、庭中にラッパの音が鳴り響きました。
それを聞いた三人は、飛び上がってびっくりしました。
クラブの3が、叫びます。
「大変だ!女王が来るぞ!急いでペンキを隠すんだ!」
ペンキを隠した三人は、たちまち地面にはいつくばりました。
「女王さま?まあ、見てみたいわ」
背伸びをするアリスに、クラブの3が言います。
「だめだよ。
ぼくたちと同じように頭を下げないと、大変なことになるよ」
アリスは仕方なく、三人と同じように地面にはいつくばりました。
ハートの女王
四人が地面にはいつくばっていると、やがて大勢の足音が聞こえました。
アリスははいつくばったまま、女王を見ようとこっそり顔を上げました。
始めに三人と一緒のトランプ姿が、十人現れました。
書かれているマークはクラブで、数字は4から13のキングです。
次に、ダイヤの十三人が現れました。
次は、スペードの十三人。
そして最後に現れたのはハートですが、ハートは他のトランプとはちがって、とても
いばって歩いています。
ハートの1から10まで現れると、次にハートのジャックが現れました。
ハートのジャックはまっ赤なビロードのクッションの上に、王さまのかんむりをのせて運んでいます。
この大行列の最後に来たのが、ハートの王さまと女王でした。
普通は王さまの方がえらいのに、ハートの女王は王さまよりもいばっています。
「はいつくばっていたら、よく顔が見えないわ」
アリスは女王の顔を見ようと、つい立ち上がってしまいました。
すると女王がそれを見つけて、ハートのジャックに言いました。
「あれは、何者じゃ?」
ハートのジャックはアリスを見ると、返事の代りに首をかしげてニコニコ笑いました。
「ばかもの!」
女王は歯がゆそうに言うと、今度はアリスに向かって聞きました。
「お前の名は、なんと申すのか?」
アリスは、出来るだけていねいに答えました。
「おそれながら、わたくしの名はアリスと申します」
でも心の中で、こう思いました。
(なあんだ。
この人たち、たかがトランプじゃないの。
何も怖がる事なんかないわ)
女王は次に、バラの木のそばではいつくばっている三人を指さして聞きました。
「ではアリス。
この者たちは、ここで何をしているのじゃ?」
「えっ?・・・それは」
三人が白いバラを赤くぬっていた事を正直に言えば、三人は女王さまに殺されてしまいます。
でもとっさにうまい言い訳を思いつかなくて、アリスは女王に言いました。
「そんな事、あたしの知ったことじゃないわ」
すると女王は、まっ赤な顔でアリスをにらみ付けると、かなきり声をあげました。
「女王に、何て口のききかたを!これの首を、切ってしまえ!」
「首を!どうしてあたしが首を切られるのよ!」
アリスは女王に負けない大きな声で、言い返しました。
「ひぇっ!」
怒鳴ることはあっても怒鳴られたことがなかった女王は、アリスの声にびっくりしてだまり込みました。
すると王さまが女王のうでに手をかけて、恐る恐る言いました。
「考えてやりなさい。
相手はまだ、ほんの子どもじゃないか」
女王はプンプン怒って、はいつくばっている三人に怒鳴りました。
「そこの者ども、立て!」
三人はびっくりして立ち上がると、女王や王さまにペコペコと何度もおじぎをしました。
「そんな事はいい。
見ていると、目がまわってくる」
女王はそう言って、今度はバラの木を見ながら言いました。
「お前たちは、ここで何をしておったのじゃ?」
「はい。
おそれながら、申しあげます」
クラブの3が、うやうやしく片ひざをついて答えました。
「実は、わたくしどもは・・・」
「わかった」
バラの木を調べていた女王が、叫びました。
「よくも白いバラを植えたね!この者どもの、首をはねろ!」
そして女王は列に戻ると、行列はまた動き出しました。
そして三人のトランプ兵士が、運の悪い三人を死刑にするために残りました。
死刑にされる三人は、アリスのところにかけよって助けをもとめました。
「大丈夫よ。
首を切らせるもんですか」
アリスは兵士たちが首を切る準備をしている間に、三人をそばにあった大きな植木
ばちの中にかくしました。
準備が終わった三人の兵士は、死刑にする三人を探してうろうろしましたが、やがてあきらめて行列のあとを追っていきました。
クロッケー遊び
兵士たちが帰ってくると、女王は兵士に聞きました。
「あの者どもの、首は切ったかい?」
首を切っていないと言うと今度は自分たちの首が切られるので、三人の兵士は女王にうそを言いました。
「はい。
もうあいつらには、首はございません」
「よろしい。
ところでお前、クロッケー遊びが出来るか?」
クロッケー遊びとは、フランスで始まりイギリスで発展した木づちでボールを打つ遊
びです。
兵士たちはだまって、アリスの顔を見ました。
女王は、アリスに聞いたからです。
「はい。
やったことはありませんが、ルールは知っています」
「それなら、ついておいで」
言われたアリスは、女王の行列にくわわって歩きました。
広場につくと、女王がカミナリみたいな声で怒鳴りました。
「みんな、位置につけ!」
するとトランプたちがかけ出して、ぶつかりあいながら四方八方にちっていきました。
そしてみんな位置につくと、ゲームがはじまりました。
「こんなおかしなクロッケー、始めて見たわ」
アリスは女王に聞こえないように、小さな声で言いました。
何しろ広場は平らではなくでこぼこで、ボールは生きたハリネズミ、そしてボールを
打つ木づちは生きたベニヅルだったのです。
女王が最初に、ボールのハリネズミを打ちました。
女王はクロッケーが下手で、ハリネズミのボールはとんでもない方向へ転がってい
きましたが、ゲートの代りをしているトランプたちが急いで動いて、ハリネズミのボールを自分たちの体で作ったゲートに通しました。
「ほれ見なさい。
わたしの腕前を」
ゲートがボールに合わせて動くなんて完全にインチキですが、女王は満足そうです。
「では次、お前の番だよ」
「はい。
女王さま」
アリスはベニヅルを小わきに抱えると、ハリネズミのボールを打とうとしました。
するとベニヅルがくにゃりと体を曲げたので、アリスは空振りです。
それをみて、女王もトランプたちも大笑い。
「もう、ベニヅルさん。
ちょっとの間、じっとしていてよ」
アリスはベニヅルの首を真っ直ぐに伸ばすと、その頭でハリネズミを打とうとしました。
すると今度はハリネズミが丸めた体を伸ばして、とことこと走っていったのです。
おかげでアリスは、またしても空振りです。
「ああん、もう。
ベニヅルさんもハリネズミさんも、じっとしていてよ」
アリスはベニヅルとハリネズミに注意をすると、三度目の正直でハリネズミのボールを打つことが出来ました。
ハリネズミのボールはまっすぐ転がって、トランプたちのゲートをくぐろうとします。
「やったわ!」
でもゲートをくぐる寸前にトランプたちが立ち上がって、別の場所に移動してしまいました。
「あらあら、お前はクロッケー遊びが下手だね。
いいかい、わたしが手本を見せるから、よく見ているんだよ」
女王はそう言って、大きな空振りをしました。
でもハリネズミは自分から転がっていき、トランプたちのゲートをくぐります。
これではアリスが、勝てるはずはありません。
娘の首をはねておしまい!
最初から勝てないとわかっているゲームほど、面白くない物はありません。
女王とのクロッケー遊びが嫌になったアリスは、何とかうまく逃げ出す方法はないか
と考えていました。
するとその時、空中に変な物が現れているのに気づきました。
はじめのうちは、何だか見当もつきません。
それでもしばらく見ていると、それはニヤニヤと笑った大きな口だと分かったのです。
「チェシャネコちゃんだわ。
ああ助かった。
これでまともなお話しが出来るわ」
口だけ現れたチェシャネコは、アリスに大きく笑って言いました。
「やあ、調子はどうだね?」
アリスはベニヅルを下に置くと、このインチキゲームの事を話しました。
「それが最低よ。
木づちのベニヅルさんも、ボールのハリネズミさんも、そしてゲートのトランプたちも、みんな女王さまの味方をしてあたしの時は言うことを聞いてくれないのよ。
さっきだって女王さまのハリネズミにあたしのハリネズミをぶつけようとしたら、女王
さまのハリネズミもあたしのハリネズミも、ぶつかる前に歩いて逃げちゃったのよ」
「きみは、女王さまが好きかい?」
チェシャネコが、アリスに小声で聞きました。
アリスは、首をブンブンとふって答えました。
「とんでもない!
女王さまなんか、ちっとも好きじゃないわ!」
その時、女王がアリスのすぐ後ろで話を聞いていたのですが、アリスは全く気づきません。
アリスは、話を続けます。
「女王さまったら、とってもひどい人よ。
さっきも赤いバラと白いバラを間違えて植えた三人に、
『首をはねておしまい!』
と、言うのよ。
三人は一生懸命に、間違えた白いバラを赤くぬっていたのに。
あたしが三人を隠してあげなければ、三人とも首をはねられていたわ」
後ろで話を聞いている女王の顔が、赤いペンキをぬったようにまっ赤になっていきました。
それを知った王さまやトランプたちは、おびえながらその様子を見ていました。
でもアリスはチェシャネコとのおしゃべりに夢中で、まだ女王に気づきません。
「それにさっきも転がり方が悪いからと言って、自分のハリネズミをふみつけてしまっ
たのよ。
ハリネズミの転がり方が悪いのは、女王さまが空振りをしても一生懸命に走って疲
れたせいなのに」
アリスが言い終わると、チェシャネコが小さな声で言いました。
「アリス、後ろを見てごらん」
「えっ、後ろ?」
アリスが後ろを見ると、頭からゆげを出して怒っている女王がいました。
女王は持っていたベニヅルを地面に叩きつけると、大きな声で怒鳴りました。
「この娘の首を、はねておしまい!」
「あっ、いえ、違うの。
あたしはチェシャネコちゃんと話していて」
「チェシャネコ?ネコがどこにいるんだい!?」
アリスがチェシャネコの方を振り返ると、チェシャネコの姿は消えていました。
「とにかくお前は死刑だ!娘の首をはねておしまい!」
「そんな、一方的よ!」
その時、王さまが恐る恐る女王に言いました。
「ちょっと待って。
裁判を開いたらどうかな?」
「裁判を?!」
「いや、そのつまり、簡単なさばきをだね」
王さまの言葉に、女王は少し考えました。
「それもそうだね。
いくら女王でも、裁判なしに人を死刑にしてはいけないね。
じゃあ、裁判を始めるよ」
裁判
アリスが裁判所に連れてこられた時には、ハートの王さまと女王は、もう玉座についていました。
まわりにはトランプのカードが全員と、動物や小鳥たちがあつまっています。
王さまのそばには、あの白ウサギがいました。
白ウサギは片手にトランペット、もう一方の手に巻き物を持っています。
法廷(ほうてい)のまん中に、テーブルがありました。
その上に小さなパイをたくさん入れた、大きなお皿がおいてありました。
とてもおいしそうなので、アリスは急にお腹が空いてきました。
「裁判なんか早くすませて、あのパイをみんなに配ってくれたらいいのに」
アリスはひまつぶしに、あたりをながめました。
アリスは裁判所に行ったことは一度もありませんが、本で読んだことはありました。
おかげで、たいていのものの名前が分かりました。
「大きなかつらをつけているから、あれが裁判長なんだわ」
その裁判長は、王さまでした。
かつらの上にかんむりをのせているので、ちっとも楽そうではありません。
それに少しも、かつらが似合っていません。
「それから、あれが陪審員席だわ。
そしてあの十二の動物たちが、陪審員なんだわ」
陪審員と言う難しい言葉がすぐに出たので、アリスはこの陪審員という言葉を得意そうに何度も繰り返しました。
たぶんアリスと同じ年の女の子で、この言葉の意味を知っているのはほとんどいないと思ったからです。
白ウサギが台に上ると、大きな声で、
「しずかに」
と、言いました。
別に誰も騒いでいませんが、こういう時の決り文句です。
王さまが、白ウサギに言いました。
「それでは伝令、告訴状を読みあげよ」
白ウサギはトランペットを3回吹き鳴らすと、巻き物をといて次のように読み上げました。
「女王陛下、陪審員諸君、国民諸君、ここにいる娘はハートの女王陛下をゲームに誘い、インチキ勝負で女王を困らせ、女王を侮辱し、女王を怒らせた」
それを聞いたアリスは、白ウサギに言いました。
「そんなのうそよ!クロッケーに誘ったのは女王さまだし、インチキ勝負をしたのも女王さまだわ!」
「おだまり!」
女王はアリスの言葉をさえぎると、ニヤリと笑ってアリスに言いました。
「それでは、判決を聞かせてやろう」
「判決?評決が先よ!」
「判決が先!評決なんか、後でいいんだよ!」
「うそよ。
そんな裁判なんてないわ」
「だまりなさい!ここでは何もかも、女王であるわたし次第なんだよ!」
女王はそう言うと、アリスをにらみ付けて言いました。
「判決!娘の首をはねておしまい!」
すると王さまが、恐る恐る言いました。
「あの、証人を一人か二人呼んではどうかな?」
「では、早くお呼び!」
証人
白ウサギはトランペットを3回吹き鳴らすと、大きな声で言いました。
「証人、前に出なさい」
現れた証人は、ぼうし屋でした。
ぼうし屋は片手にお茶の茶わん、片手にバターをぬったパンを持って入ってきました。
「王さま、こんなかっこうを、どうかおゆるしください。
じつは呼びにこられましたとき、まだお茶をすましていなかったものですから」
王さまは、ぼうし屋に命じました。
「そのぼうしを、ぬげ」
するとぼうし屋が、王さまに言いました。
「これは、わたくしのではございません」
「では、誰のぼうしだ?」
「わたくしは、売るためにぼうしを持っておるのでございます。
自分の物は、一つもありません。
わたくしは、ぼうし屋でございます」
ぼうし屋は、そう言い訳をしました。
そんなぼうし屋を、女王がメガネをかけてにらみつけました。
ぼうし屋はまっ青になって、そわそわしました。
「とにかく、この娘が有罪である証拠をあげるんだ。
インチキ勝負をして、わたしを困らせたとね。
さもないと、お前の首をはねてしまうよ」
証拠をあげろと言われても、クロッケー遊びの時にぼうし屋はいなかったので、証拠をあげる事は出来ません。
困ったぼうし屋はおろおろして、バターをぬったパンではなくて、お茶わんの方をパクリとかぶりつきました。
そのときアリスは、体がムズムズするのを感じました。
この世界に来て、何度も経験した感じです。
「体が、また大きくなるの?何も食べていないのに?」
ぼうし屋は、くつがぬげてしまうほど、ガタガタとふるえ出しました。
「さあ、証拠をあげるんだ」
王さまも、ぼうし屋に怒鳴りました。
「さもないと、お前を死刑にしてしまうぞ」
「わたくしは、あわれなものでございます」
ぼうし屋は、泣き出しそうな声で言いました。
それを見ていたアリスは、ぼうし屋がかわいそうになって言いました。
「もう、ぼうし屋さんが困っているわ!だいたいこんなばかばかしい裁判なんて、続けるだけ無駄よ!」
そしてアリスは、机を両手で叩きました。
いえ、叩こうとしたのですが、机が小さくて叩けませんでした。
「机が小さくなったわ。
・・・いいえ、あたしが大きくなったのよ」
アリスのはんげき
ぐんぐん大きくなったアリスを見て、王さまも女王さまも白ウサギもびっくりです。
何しろアリスの体は、ここにいる人たちの何十倍も大きいのですから。
王さまは法律が書かれてあるノートを広げると、アリスに言いました。
「第四十二条、背の高さ、1キロ以上の者は、すべて法廷を出ること」
「あたしは、1キロなんかありません」
文句を言うアリスに、王さまが言いました。
「いや、ある。
1.5キロはあるぞ」
女王も、そばから言いました。
「2キロはある」
「とにかく、あたしは出ていきません。
それに1キロ以上は法廷を出るなんて、それは本当の規則ではありません。
王さまがたったいま、かってにつくりだしたものです」
「いや、これはこの国の一番古い規則じゃ」
「あら、一番古いなら、第一条でなければおかしいわ」
王さまは、あわててノートを閉じました。
「とにかく陪審員、有罪か無罪か決めろ」
「死刑よ。
娘の首をはねておしまい!」
今言ったのは、女王です。
すっかり大きくなったアリスは、王さまと女王をつまみ上げて言いました。
「なによ。
有罪だの、首をはねておしまいだの。
あんたたちなんて、ちっとも怖くないわ。
いくらいばっても、あんたたちなんか、たかがトランプじゃないの」
「ええい、なまいきな。
兵士たち、今すぐ娘の首をはねておしまい!」
女王の言葉にトランプの兵士たちがおそってきましたが、今のアリスには怖くありません。
アリスは飛びかかってくるトランプの兵士を、手で簡単にはねのけました。
その時、アリスの目の前にあの笑った口が現れました。
チェシャネコです。
顔だけ姿を現したチェシャネコは、アリスに言いました。
「アリス、そろそろ目を覚ました方がいいよ。
お姉さんが困っているからね」
「えっ?お姉さんが?」
現実の世界へ
気がつくとアリスは、お姉さんのひざをまくらにして寝ていました。
お姉さんは上の木からひらひらとまい落ちて来る木の葉を、やさしくアリスの頭から
払いのけていました。
「ようやく起きたのね、アリスちゃん。
あなた、ずいぶん長いこと寝てたわよ」
「まあ、あたし、とってもおかしな夢をみたわ」
アリスはそう言って思い出すかぎり、今までみなさんが読んできたアリスの不思議な冒険の事をお姉さんに話しました。
「それでね、最後にハートの女王さまをぶん投げたわ」
アリスが話し終わると、お姉さんはアリスのほっぺたにやさしくキスをして言いました。
「本当に、おかしな夢だったわね。
でも早くお家へ帰って、おやつをいただいてらっしゃい。
もう、おそいのよ」
「はーい」
アリスは立ちあがると、家に向かってかけ出しました。
お姉さんはアリスが去ったあと、沈んでいく夕日を見ながらアリスの不思議な冒険話を思い出しました。
そしてかわいい妹が、大人になったときのことを想像してみました。
アリスは大人になっても、ずっと子どもの頃のすなおなやさしい心をなくさずにいるでしょう。
そして自分のまわりに子どもたちを集めて、さっきの不思議なお話を子どもたちに聞かせることでしょう。
おわり。