千と千寻の神隠し

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千と千尋の神隠し

父 千尋。千尋、もうすぐだよ。
母 やっぱり田舎ねー。買い物は隣町に行くしかなさそうね。
父 住んで都にするしかないさ。
ほら、あれが小学校だよ。千尋、新しい学校だよ。
母 結構きれいな学校じゃない。

しぶしぶ起きあがってあかんべをする千尋。

千尋 前の方がいいもん。
…あっ、あああ!!おかあさん、お花しおれてっちゃった!
母 あなた、ずーっと握りしめてるんだもの。おうちについたら水切りすれば大丈夫よ。
千尋 初めてもらった花束が、お別れの花束なんて悲しい……
母 あら。この前のお誕生日にバラの花をもらったじゃない?
千尋 一本ね、一本じゃ花束って言えないわ。
母 カードが落ちたわ。
窓開けるわよ。もうしゃんとしてちょうだい!今日は忙しいんだから。

タイトル

父 あれ?道を間違えたかな?おかしいな……
母 あそこじゃない?ほら。
父 ん?
母 あの隅の青い家でしょ?
父 あれだ。一本下の道を来ちゃったんだな。……このまま行っていけるのかな。
母 やめてよ、そうやっていつも迷っちゃうんだから。
父 ちょっとだけ、ねっ。
千尋 あのうちみたいの何?
母 石のほこら。神様のおうちよ

父 おとうさん、大丈夫?
父 まかせとけ、この車は四駆だぞ!
千尋 うぁっ―
母 千尋、座ってなさい。

千尋 あっ、うわっ……わっ、わっ!!
ぅああああああっ!
母 あなた、いいかげんにして!
父 行き止まりだ!

母 なあに?この建物。
父 門みたいだね。
母 あなた、もどりましょう、あなた。
千尋?…もぅ。
父 何だ、モルタル製か。結構新しい建物だよ。
千尋 ……風を吸込んでる……
母 なぁに?
父 ちょっと行ってみない?むこうへ抜けられるんだ。
千尋 ここいやだ。戻ろうおとうさん!
父 なーんだ。恐がりだな千尋は。ねっ、ちょっとだけ。
母 引越センターのトラックが来ちゃうわよ。
父 平気だよ、カギは渡してあるし、全部やってくれるんだろ?
母 そりゃそうだけど……
千尋 いやだ、わたし行かないよ!
戻ろうよ、おとうさん!
父 おいで、平気だよ。
千尋 わたし行かない!!
うぅ……あぁっ!
母 千尋は車の中で待ってなさい。
千尋 ぅぅ……おかあさーん!
まってぇーっ!
父 足下気をつけな。
母 千尋、そんなにくっつかないで。歩きにくいわ。

千尋 ここどこ?
母 あっ。ほら聞こえる。
千尋

……電車の音!
母 案外 駅が近いのかもしれないね。
父 いこう、すぐわかるさ。

千尋 こんなとこに家がある……
父 やっぱり間違いないな。テーマパークの残骸だよ、これ。
90年頃にあっちこっちでたくさん計画されてさ。バブルがはじけてみんな潰れちゃったんだ。これもその一つだよ、きっと。
千尋 えぇーっ、まだいくの!?おとうさん、もう帰ろうよぅ!
ねぇーーーっ!!

千尋 おかあさん、あの建物うなってるよ。
母 風鳴りでしょ。気持ちいいとこねー、車の中のサンドイッチ持ってくれば良かった。
父 川を作ろうとしたんだねー。
ん?なんか匂わない?
母 え?
父 ほら、うまそうな匂いがする。
母 あら、ほんとね。
父 案外まだやってるのかもしれないよ、ここ。
母 千尋、はやくしなさい。
千尋 まーってー!

父 ふん、ふん……こっちだ。
母 あきれた。これ全部 食べ物屋よ。
千尋 誰もいないねー。
父 ん?あそこだ!
おーい、おーい。
はぁー。うん、わぁ。
こっちこっち。
母 わぁー、すごいわねー。
父 すみませーん、どなたかいませんかー?
母 千尋もおいで、おいしそうよ。
父 すいませーん!!
母 いいわよ、そのうち来たらお金払えばいいんだから。
父 そうだな。そっちにいいやつが……
母 これなんていう鳥かしら。……おいしい!千尋、すっごくおいしいよ!
千尋 いらない!ねぇ帰ろ、お店の人に怒られるよ。
父 大丈夫、お父さんがついてるんだから。カードも財布も持ってるし。
母 千尋も食べな。骨まで柔らかいよ。
父 辛子。
母 ありがと。
千尋 おかぁさん、おとぅさん!!

諦めて歩き出す千尋。油屋の建物を見つける。

千尋 へんなの。

千尋 電車だ!……?
ハク様 ……!!
ここへ来てははいけない!!すぐ戻れ!
千尋 えっ?
ハク様 じきに夜になる!その前に早く戻れ!
…もう明かりが入った、急いで!私が時間を稼ぐ、川の向こうへ走れ!!

千尋 なによあいつ……

明かりが入ると同時に、たくさんの影が動き出す。

千尋 ………!!おとうさーん!
おとうさん帰ろ、帰ろう、おとうさーん!!
座っていた豚が振り向く。
千尋 ひぃぃ……っ
豚がたたかれて倒れる。
豚 ブギィィィ!!
千尋 ぅわぁあーっ!
おとおさーん、おかあさーん!!
おかあさーん、ひっ!
ぎゃああーーっ!!

千尋 ひゃっ!…水だ!

うそ……夢だ、夢だ!さめろさめろ、さめろ!
さめてぇ……っ……
これはゆめだ、ゆめだ。みんな消えろ、消えろ。きえろ。
あっ……ぁあっ、透けてる!ぁ……夢だ、絶対夢だ!

船が接岸し、春日さまが出てくる。

千尋 ひっ……ひっ、ぎゃあああーーっ!!

千尋を捜すハク。暗闇にいる千尋を見つけて肩を抱く。

千尋 っっっ!!!
ハク様 怖がるな。私はそなたの味方だ。
千尋 いやっ、やっ!やっっ!!
ハク様 口を開けて、これを早く。この世界のものを食べないとそなたは消えてしまう。
千尋 いやっ!!……っ!?
ハク様 大丈夫、食べても豚にはならない。噛んで飲みなさい。
千尋 ……ん……んぅ……んー……っ
ハク様 もう大丈夫。触ってごらん。
千尋 さわれる……
ハク様 ね?さ、おいで。
千尋 おとうさんとおかあさんは?どこ?豚なんかになってないよね!?
ハク様 今は無理だけど必ず会えるよ。……!
静かに!!

ハクが千尋を壁に押しつけると、上空を湯バードが飛んでいく。

ハク様 そなたを捜しているのだ。時間がない、走ろう!
千尋 ぁっ……立てない、どうしよう!力が入んない……
ハク様 落ち着いて、深く息を吸ってごらん……そなたの内なる風と水の名において……解き放て……
立って!
千尋 あっ、うわっ!

走り出す二人。

ハク様 ……橋を渡る間、息をしてはいけないよ。
ちょっとでも吸ったり吐いたりすると、術が解けて店の者に気づかれてしまう。
千尋 こわい……
ハク様 心を鎮めて。

従業員 いらっしゃいませ、お早いお着きで。いらっしゃいませ。いらっしゃいませ。
ハク様 所用からの戻りだ。
従業員 へい、お戻りくださいませ。
ハク様 深く吸って…止めて。

カオナシが千尋を見送る。

湯女 いらっしゃい、お待ちしてましたよ。
ハク様 しっかり、もう少し。
青蛙 ハク様ぁー。何処へ行っておったー?
千尋 ……!ぶはぁっ
青蛙 ひっ、人か?
ハク様 ……!走れ!
青蛙 ……ん?え、え?

青蛙に術をかけて逃げるハク。

従業員 ハク様、ハク様!ええい匂わぬか、人が入り込んだぞ!臭いぞ、臭いぞ!
ハク様 勘づかれたな……
千尋 ごめん、私 息しちゃった……
ハク様 いや、千尋はよく頑張った。これからどうするか離すからよくお聞き。ここにいては必ず見つかる。
私が行って誤魔化すから、そのす

きに千尋はここを抜け出して……
千尋 いや!行かないで、ここにいて、お願い!
ハク様 この世界で生き延びるためにはそうするしかないんだ。ご両親を助けるためにも。
千尋 やっぱり豚になったの夢じゃないんだ……
ハク様 じっとして……
騒ぎが収まったら、裏のくぐり戸から出られる。外の階段を一番下まで下りるんだ。そこにボイラー室の入口がある。火を焚くところだ。
中に釜爺という人がいるから、釜爺に会うんだ。
千尋 釜爺?
ハク様 その人にここで働きたいと頼むんだ。断られても、粘るんだよ。
ここでは仕事を持たない者は、湯婆婆に動物にされてしまう。
千尋 湯婆婆…って?
ハク様 会えばすぐに分かる。ここを支配している魔女だ。嫌だとか、帰りたいとか言わせるように仕向けてくるけど、働きたいとだけ言うんだ。辛くても、耐えて機会を待つんだよ。そうすれば、湯婆婆には手は出せない。
千尋 うん……

従業員 ハク様ぁー、ハク様ー、どちらにおいでですかー?
ハク様 いかなきゃ。忘れないで、私は千尋の味方だからね。
千尋 どうして私の名を知ってるの?
ハク様 そなたの小さいときから知っている。私の名は――ハクだ。

ハク様 ハクはここにいるぞ。
従業員 ハク様、湯婆婆さまが……
ハク様 分かっている。そのことで外へ出ていた。

階段へ向う千尋。恐る恐る踏み出し、一段滑り落ちる。

千尋 ぃやっ!
はっ、はぁっ……

もう一段踏み出すと階段が壊れ、はずみで走り出す。

千尋 わ…っいやああああーーーーっ!やあぁああああああー!!

なんとか下まで降り、そろそろとボイラー室へむかう。
ボイラー室で釜爺をみて後ずさりし、熱い釜に触ってしまう。

千尋 あつっ…!

カンカンカンカン(ハンマーの音)

千尋 あの……。すみません。
あ、あのー……あの、釜爺さんですか?
釜爺 ん?……ん、んんーー??
千尋 ……あの、ハクという人に言われてきました。ここで働かせてください!

リンリン(呼び鈴の音)

釜爺 ええい、こんなに一度に……
チビども、仕事だー!

カンカンカンカンカンカン

釜爺 わしゃあ、釜爺だ。風呂釜にこき使われとるじじいだ。
チビども、はやくせんか!
千尋 あの、ここで働かせてください!
釜爺 ええい、手は足りとる。そこら中ススだらけだからな。いくらでも代わりはおる

わい。

千尋 あっ、ごめんなさい。
あっ、ちょっと待って。
釜爺 じゃまじゃま!

千尋 ……あっ。

重さで潰れたススワタリの石炭を持ち上げる千尋。ススワタリは逃げ帰ってゆく。

千尋 あっ、どうするのこれ?
ここにおいといていいの?
釜爺 手ぇ出すならしまいまでやれ!
千尋 えっ?……

石炭を釜に運ぶと、ススワタリみんなが潰れた真似をしだす。
カンカンカンカン

釜爺 こらあー、チビどもー!ただのススにもどりてぇのか!?
あんたも気まぐれに手ぇ出して、人の仕事を取っちゃならね。働かなきゃな、こいつらの魔法は消えちまうんだ。
ここにあんたの仕事はねぇ、他を当たってくれ。
……なんだおまえたち、文句があるのか?仕事しろ仕事!!
リン メシだよー。なぁんだまたケンカしてんのー?
よしなさいよもうー。うつわは?ちゃんと出しといてって言ってるのに。
釜爺 おお……メシだー、休憩ー!

リン うわ!?
人間がいちゃ!…やばいよ、さっき上で大騒ぎしてたんだよ!?
釜爺 わしの……孫だ。
リン まごォ?!
釜爺 働きたいと言うんだが、ここは手が足りとる。おめぇ、湯婆婆ンとこへ連れてってくれねえか?後は自分でやるだろ。
リン やなこった!あたいが殺されちまうよ!
釜爺 これでどうだ?イモリの黒焼き。上物だぞ。
どのみち働くには湯婆婆と契約せにゃならん。自分で行って、運を試しな。
リン ……チェッ!そこの子、ついて来な!
千尋 あっ。
リン …あんたネェ、はいとかお世話になりますとか言えないの!?
千尋 あっ、はいっ。
リン どんくさいね。はやくおいで。
靴なんか持ってどうすんのさ、靴下も!
千尋 はいっ。
リン あんた。釜爺にお礼言ったの?世話になったんだろ?
千尋 あっ、うっ!……ありがとうございました。
釜爺 グッドラック!

リン 湯婆婆は建物のてっぺんのその奥にいるんだ。
早くしろよォ。
千尋 あっ。
リン 鼻がなくなるよ。
千尋 っ…

リン もう一回乗り継ぐからね。
千尋 はい。

リン いくよ。
……い、いらっしゃいませ。
お客さま、このエレベーターは上へは参りません。他をお探し下さい。

千尋 ついてくるよ。
リン きょろきょろすんじゃないよ。

蛙男 到着でございます。
右手のお座敷でございます。
?……リン。
リン はーい。(ドン!)
千尋 ぅわっ!
蛙男

なんか匂わぬか?人間だ、おまえ人間くさいぞ。
リン そーですかぁー??
蛙男 匂う匂う、うまそうな匂いだ。おまえなんか隠しておるな?正直に申せ!
リン この匂いでしょ。
蛙男 黒焼き!……くれぇーっ!
リン やなこった。お姉さま方に頼まれてんだよ。
蛙男 頼む、ちょっとだけ、せめて足一本!
リン 上へ行くお客さまー。レバーをお引き下さーい。

『二天』につくが、『天』まで千尋を連れて行くおしらさま。

奥のドアを開けようとする千尋。

湯婆婆 ……ノックもしないのかい!?
千尋 やっ!?
湯婆婆 ま、みっともない娘が来たもんだね。
さぁ、おいで。……おいでーな~。
千尋 わっ!わ……っ!!
いったぁ~……

頭が寄ってくる。

千尋 ひっ、うわぁ、わあっ……わっ!
湯婆婆 うるさいね、静かにしておくれ。
千尋 あのー……ここで働かせてください!

魔法で口チャックされる千尋。

湯婆婆 馬鹿なおしゃべりはやめとくれ。そんなひょろひょろに何が出来るのさ。
ここはね、人間の来るところじゃないんだ。八百万の神様達が疲れをいやしに来るお湯屋なんだよ。
それなのにおまえの親はなんだい?お客さまの食べ物を豚のように食い散らして。当然の報いさ。
おまえも元の世界には戻れないよ。
……子豚にしてやろう。ぇえ?石炭、という手もあるね。
へへへへへっ、震えているね。……でもまあ、良くここまでやってきたよ。誰かが親切に世話を焼いたんだね。
誉めてやらなきゃ。誰だい、それは?教えておくれな……
千尋 ……あっ。ここで働かせてください!
湯婆婆 まァだそれを言うのかい!
千尋 ここで働きたいんです!
湯婆婆 だァーーーまァーーーれェーーー!!!

湯婆婆 なんであたしがおまえを雇わなきゃならないんだい!?見るからにグズで!甘ったれで!泣き虫で!頭の悪い小娘に、仕事なんかあるもんかね!
お断りだね。これ以上穀潰しを増やしてどうしようっていうんだい!
それとも……一番つらーーいきつーーい仕事を死ぬまでやらせてやろうかぁ……?

湯婆婆 ……ハッ!?
坊 あーーーーん、あーーん、ああああーーー
湯婆婆 やめなさいどうしたの坊や、今すぐ行くからいい子でいなさいね……まだいたのかい、さっさと出て行きな!
千尋 ここで働きたいんです!
湯婆婆 大きな声を出すんじゃない……うっ!あー、ちょっと待ちなさい、ね

、ねぇ~。いい子だから、ほぉらほら~。
千尋 働かせてください!!
湯婆婆 わかったから静かにしておくれ!
おおぉお~よ~しよし~……

紙とペンが千尋の方へ飛んでくる。

湯婆婆 契約書だよ。そこに名前を書きな。働かせてやる。その代わり嫌だとか、帰りたいとか言ったらすぐ子豚にしてやるからね。
千尋 あの、名前ってここですか?
湯婆婆 そうだよもぅぐずぐずしないでさっさと書きな!
まったく……つまらない誓いをたてちまったもんだよ。働きたい者には仕事をやるだなんて……
書いたかい?
千尋 はい……あっ。
湯婆婆 フン。千尋というのかい?
千尋 はい。
湯婆婆 贅沢な名だねぇ。
今からおまえの名前は千だ。いいかい、千だよ。分かったら返事をするんだ、千!!
千 は、はいっ!

ハク様 お呼びですか。
湯婆婆 今日からその子が働くよ。世話をしな。
ハク様 はい。……名はなんという?
千 え?ち、…ぁ、千です。
ハク様 では千、来なさい。

千 ハク。あの……
ハク様 無駄口をきくな。私のことは、ハク様と呼べ。
千 ……っ

父役 いくら湯婆婆さまのおっしゃりでも、それは……
兄役 人間は困ります。
ハク様 既に契約されたのだ。
父役 なんと……
千 よろしくお願いします。
湯女 あたしらのとこには寄こさないどくれ。
湯女 人臭くてかなわんわい。
ハク様 ここの物を三日も食べれば匂いは消えよう。それで使い物にならなければ、焼こうが煮ようが好きにするがいい。
仕事に戻れ!リンは何処だ。
リン えぇーっ、あたいに押しつけんのかよぅ。
ハク様 手下をほしがっていたな。
父役 そうそう、リンが適役だぞ。
リン えーっ。
ハク様 千、行け。
千 はいっ。
リン やってらんねぇよ!埋め合わせはしてもらうからね!
兄役 はよいけ。
リン フン!……来いよ。

リン ……おまえ、うまくやったなぁ!
千 えっ?
リン おまえトロイからさ、心配してたんだ。油断するなよ、わかんないことはおれに聞け。な?
千 うん。
リン ……ん?どうした?
千 足がふらふらするの。

リン ここがおれたちの部屋だよ。食って寝りゃ元気になるさ。
前掛け。自分で洗うんだよ。…袴。チビだからなぁ……。でかいな。
千 リンさん、あの……
リン なに?
千 ここにハクっていうひと二人いるの?
リン 二人ぃ?あんなの二人もいたらたまんないよ。……だめか。

あいつは湯婆婆の手先だから気をつけな。
千 ……んっ……ん……
リン ……おかしいな…あああ、あったあった。ん?
おい、どうしたんだよ?しっかりしろよぅ。
女 うるさいなー。なんだよリン?
リン 気持ち悪いんだって。新入りだよ。

湯婆婆が鳥になって飛んでいく。見送るハク。

寝ている千のもとへ、ハクが忍んでくる。

ハク様 橋の所へおいで。お父さんとお母さんに会わせてあげる。

部屋を抜け出す千。

千 靴がない。
……あ。ありがとう。

ススワタリに手を振る千。
橋の上でカオナシに会う。

ハク様 おいで。

花の間を通り畜舎へ。

千 ……おとうさんおかあさん、私よ!……せ、千よ!おかあさん、おとうさん!
病気かな、ケガしてる?
ハク様 いや。おなかが一杯で寝ているんだよ。人間だったことは今は忘れている。
千 うっ……くっ……おとうさんおかあさん、きっと助けてあげるから、あんまり太っちゃだめだよ、食べられちゃうからね!!

垣根の下でうずくまる千。ハクが服を渡す。

ハク様 これは隠しておきな。
千 あっ!……捨てられたかと思ってた。
ハク様 帰るときにいるだろう?
千 これ、お別れにもらったカード。ちひろ?……千尋って……私の名だわ!
ハク様 湯婆婆は相手の名を奪って支配するんだ。いつもは千でいて、本当の名前はしっかり隠しておくんだよ。
千 私、もう取られかけてた。千になりかけてたもん。
ハク様 名を奪われると、帰り道が分からなくなるんだよ。私はどうしても思い出せないんだ。
千 ハクの本当の名前?
ハク様 でも不思議だね。千尋のことは覚えていた。
お食べ、ご飯を食べてなかったろ?
千 食べたくない……
ハク様 千尋の元気が出るように呪い(まじない)をかけて作ったんだ。お食べ。
千 ……ん……ん、んっ………うわぁああーー、わぁああーーー、あぁああーーん……
ハク様 つらかったろう。さ、お食べ。
千 ひっく……うぁあーーん……

ハク様 一人で戻れるね?
千 うん。ハクありがとう、私がんばるね。
ハク様 うん。

帰り際、空に昇る白い竜を見つける。

千 わぁっ。

釜爺が水を飲みに起き、寝ている千を見つける。座布団を掛けてやる。

湯婆婆が戻ってくる。

リン どこ行ってたんだよ。心配してたんだぞ。
千 ごめんなさい。

名札を掛ける

のに手間取る千。

湯女 じゃまだねぇ。

リン 千、もっと力はいんないの?
兄役 リンと千、今日から大湯番だ。
リン えぇーっ、あれは蛙の仕事だろ!
兄役 上役の命令だ。骨身を惜しむなよ。

水を捨てに来る千。外に立っているカオナシを見つける。

千 あの、そこ濡れませんか?
リン 千、早くしろよ!
千 はーーい。……ここ、開けときますね。

湯女 リン、大湯だって?
リン ほっとけ!

リン ひでぇ、ずーっと洗ってないぞ。

転ぶ千。

千 うわっ!……あーっ。

リン ここの風呂はさ、汚しのお客専門なんだよ。うー、こびりついてて取れやしねえ。
兄役 リン、千。一番客が来ちまうぞ。
リン はーーい今すぐ!チッ、下いびりしやがって。
一回 薬湯入れなきゃダメだ。千、番台行って札もらってきな。
千 札?……うわっ!
リン 薬湯の札だよ!
千 はぁーい。……リンさん、番台ってなに?

湯婆婆 ん?…なんだろうね。なんか来たね。
雨に紛れてろくでもないものが紛れ込んだかな?

街を進んでくるオクサレさま。

番台蛙 そんなもったいないことが出来るか!……おはようございます!良くお休みになられましたか!
湯女 春日様。
番台蛙 はい、硫黄の上!……いつまでいたって同じだ、戻れ戻れ!手でこすればいいんだ!
おはようございます!……手を使え手を!
千 でも、あの、薬湯じゃないとダメだそうです。
番台蛙 わからんやつだな……あっ、ヨモギ湯ですね。どーぞごゆっくり……
千 あっ……

背後にカオナシを見つけて会釈する千。

番台蛙 んん?

リリリリリ

番台蛙 はい番台です!…あっ、……うわっ!?
千 あっ!ありがとうございます!!
番台蛙 あー、違う!こら待て、おい!
湯婆婆 どしたんだい!?
番台蛙 い、いえ、なんでもありません。
湯婆婆 なにか入り込んでるよ。
番台蛙 人間ですか。
湯婆婆 それを調べるんだ。今日はハクがいないからね。

リン へぇーずいぶんいいのくれたじゃん。
これがさ、釜爺のとこへ行くんだ。混んでないからすぐ来るよきっと。
これを引けばお湯が出る。やってみな。
千 うわっ!……
リン 千てほんとドジなー。
千 うわ、すごい色……
リン こいつにはさ、ミミズの干物が入ってんだ。こんだけ濁ってりゃこすらなくても同じだな。
いっぱいになったらも

う一回引きな、止まるから。もう放して大丈夫だよ。おれ朝飯取ってくんな!
千 はぁーい。……あっ。

カオナシを見つける。風呂の縁から落ちる千。

千 うわっ!……いったぃ…った……
あの、お風呂まだなんです。
わ…こんなにたくさん……
えっ、私にくれるの?
カオナシ あ、あ、……
千 あの……それ、そんなにいらない。
カオナシ あ、…
千 だめよ。ひとつでいいの。
カオナシ あ……

千 え…あっ!

釜から水があふれる。

千 うわぁっ!!

父役 奥様。
湯婆婆 クサレ神だって!?
父役 それも特大のオクサレさまです!
従業員 まっすぐ橋へ向かってきます!

従業員達 お帰り下さい、お帰り下さい!
青蛙 お帰り下さい、お引き取り下さい、お帰り下さい!
うっ……くっさいぃ~…!

湯婆婆 ぅう~ん…おかしいね。クサレ神なんかの気配じゃなかったんだが……
来ちまったものは仕方がない。お迎えしな!
こうなったら出来るだけはやく引き取ってもらうしかないよ!

兄役 リンと千、湯婆婆様がお呼びだ。
千 あ、はいっ!
湯婆婆 いいかい、おまえの初仕事だ。これから来るお客を大湯で世話するんだよ。
千 ……あの~……
湯婆婆 四の五の言うと、石炭にしちまうよ。わかったね!
父役 み、見えました……ウッ…

湯婆婆?千 ウゥッ……!!
湯婆婆 …おやめ!お客さんに失礼だよ!
が?が?……ヨク オコシクダしゃいマシタ……
え?あ オカネ……千!千!早くお受け取りな!
千 は、はいっ!
(ベチャッ)
千 うゥ…!
湯婆婆 ナニ してるんだい…!ハヤク ご案内しな!
千 ど どうぞ ……

リン セーーーン!
うぇっ……くっせえ…あっ、メシが!

湯婆婆 窓をお開け!全部だよ!!

大湯に飛び込み、千に何かを促すオクサレさま。

千 えっ?ぁ、……ちょっと待って!

上から見ている湯婆婆と父役。

湯婆婆 フフフフ、汚いね。
父役 笑い事ではありません。
湯婆婆 あの子どうするかね。
……ほぉ、足し湯をする気だよ。
父役 あぁああ、汚い手で壁に触りおって!

千 あっ……あっ!

札を下げようとして落とす千。他の札を取って釜爺に送る。

湯婆婆 んん?千に新しい札あげたのかい?
父役 まさかそんなもったいない……

千 わっ!

湯の紐を引きながら落ちる千。

ヘドロにはまる。

父役 あああーっ、あんな高価な薬湯を!

オクサレさまに引っ張り出される千。何かに手を触れる。

千 ……?あっ?

リン セーーーン!千どこだ!!
千 リンさん!
リン だいじょぶかあ!釜爺にありったけのお湯出すように頼んできた!最高の薬湯おごってくれるって!
千 ありがとう!あの、ここにトゲみたいのが刺さってるの!
リン トゲーー??
千 深くて取れないの!

湯婆婆 トゲ?トゲだって?……ううーん……
下に人数を集めな!
父役 えぇっ?
湯婆婆 急ぎな!
千とリン、そのお方はオクサレ神ではないぞ!
このロープをお使い!
千 はいっ!
リン しっかり持ってな!
千 はいっ!
湯婆婆 ぐずぐずするんじゃないよ!女も力を合わせるんだ!
千 結びました!
湯婆婆 んーーー湯屋一同、心をこめて!!エイヤーーーーソーーーーレーーーー
一同 そーーーれ、そーーーーれ!
そーーーれ、そーーーーれ!
千 自転車?
湯婆婆 やはり!さぁ、きばるんだよ!

オクサレさまからたくさんのゴミが出てくる。

河の主 はァーーー……

千 うっわっ……わあっ!

水の流れに包まれる千。

リン セーーーン!だいじょぶかあ!?

河の主 ……佳き哉……
千 あっ……

千の手に残る団子。

湯婆婆 んん……?
従業員 砂金だ!!
砂金だ!わあーっ!
湯婆婆 静かにおし!お客さまがまだおいでなんだよ!
千!お客さまの邪魔だ、そこを下りな!
大戸を開けな!お帰りだ!!

河の主 あははははははははは……

神様達 やんやーーやんやーー!!
湯婆婆 セーン!よくやったね、大もうけだよ!
ありゃあ名のある河の主だよ~。みんなも千を見習いな!今日は一本付けるからね。
みんな おぉーー!!
湯婆婆 さ、とった砂金を全部だしな!
みんな えぇーーっ!そりゃねえやな……



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