バレンタイン假名 共享版

バレンタイン
最近さいきん、街まちに買かい物ものに出でたらデパート内ないは真まっ赤あか
なハートで飾かざり付つけられていた。

すっかりバレンタイン商戦真しょうせんまっ只中ただなかだ。

今いまとなってはあまり自分じぶんとは関係かんけいのない行事ぎょうじ
になってし
まったけど、バレンタインデーは女おんなの子こ
にとってはとても大切たいせつな日ひ
だ。

私わたしは高校二年生こうこうにねんせいの時とき、ラグビー部ぶの主将しゅしょうを務つと
めている先輩せんぱいに恋こいしていた。

話はなした事こともないどころか、声こえさえも余あまり聞きいたことがない。

ただ、ラグビーに汗あせを流ながす姿すがた
がカッコ
よくて、眺ながめているだけて幸しあわせだった。

彼がグラウンドに行いく時ときは、私わたしが当時所属とうじしょぞくしていた吹奏楽部すいそうがくぶの部室ぶしつの前まえを必かならず通とおる。

通とおり過すぎるのは一瞬いっしゅんなのに、部室ぶしつの窓まどから通とおり過すぎ
るのをずっと待まっていた。

授業じゅぎょうの合間あいまの休やすみ時間じかんには、彼かれ
は頻繁ひんぱんに友達ともだちとベランダに出でていたのでそれも毎まい時間じかん眺ながめて
いた。

わざわざ放送委員ほうそういいんに所属しょぞくし、アナウンスする時ときは先輩
せんぱい
が聞きいていますように、と思おもいを込こ
めてアナウンスした。

な
んともいじらしい気きもするけど、良よく考かんが
えると、ほとんど
ストーカーである。

でも、当時とうじの私わたしは、ずっと見み
ていれば
もしかしたら私わたしの気持きもちに気きづいてくれるかも、という甘
あま
い期待きたいをもちつつ、見みつめるだけで幸しあわせな日ひを過す
ごしてい
た。

いままで思おもいも告つげる事こと
もできなかったけれど、もうす
ぐバレンタインデーが近づいてくる。

いよいよ告白こくはくの機会きかい
が巡めぐって来きた。

実じつは、密ひそかに家いえで手編てあみのセーターを編あ
んでい
たが、雑誌ざっしなどに「知しらない子こからもらう手作てづくりは気持きもち悪
わる
いと思おもわれるのでやめた方ほうが良よい」と書か
いてあったのでセー
ターは泣なく泣なく父親ちちおやに上あげる事こと
にした。

チョコはデパートで吟味ぎんみし、当時とうじの高校生こうこうせいにしてはちょっと奮発ふんぱつした千円せんえん
くらい
のチョコを買かった。

可愛かわいらしい雑貨屋ざっかやさんでカードを購入
にゅう
して手紙てがみを書かいた。

当日とうじつは、吹奏楽部すいそうがくぶの先輩せんぱいに、通用口つうようぐちに呼よ
び出だしてもらうよう、手配てはいもすんだ。

「よし！」後あとは、当日頑張
とうじつがんばるだけだ。

私わたしは、数日後すうじつごに迫せまる運命うんめいの日ひに胸むねを躍おど
らせてい
た。

国生こくしょうさゆりの「バレンタインデーキス」の歌うた
のように、
キスなんてされちゃったらどうしよう、なんて考かんが
えていた。

行動こうどうはおどおどしているのに、頭あたまの中なかは過激かげき
である。

そして、バレンタインデー当日とうじつ。

朝あさから心臓しんぞうは高鳴たかな
って
いた。

そして放課後ほうかご、通用口つうようぐちにいくと、吹奏楽部すいそうがくぶの先輩せんぱい
が「も
う来きてるよ！」と言いってくれた。

あ、彼だ。

緊張きんちょうは一気いっきに高
たかまる。

手てのひらも汗あせでいっぱいだ。

彼は、ラグビー部ぶに所属
しょぞく
しているだけあって軽かるく一八〇センチを超こえる長身ちょうしん
だ。

そ
んな彼かれを見上みあげると今いままでに見み
たことがないくらいの至近距離しきんきょりに彼かれの顔かおが見み
えた。

「あ、あの、これ、もらってく
ださい。

」「ありがとう」たったこれだけだった。

今思いまおも
えば、
なんかもうちょっと話はなし
をするとかすればいいのに、チョコ
を手渡てわたすだけで精せいいっぱいだったのである。

その後ご、一いっヶか
月後げつごのホワイトデーを迎むかえる前まえに、彼かれは卒業そつぎょう
していった。

もちろん、何なんの進展しんてんもないまま。

ちょっぴり切せつない失恋しつれんの思
おも
い出でだけれど、十年後じゅうねんごの私わたしにはとても大切たいせつな思おもい出で
である。

仮かりにあの時とき運うんよく付つき合あったとしても、お互たがいに何なにも知し
らな
いで付つき合あったらほとんどの場合ばあいは別わか
れてしまうだろう。

そ
うしたら、このバレンタインの日ひの思おもい出では苦にがい思おもい出で
なっ
てしまう。

負まけ惜おしみではないけれど、片思かたおもいで終おわった恋
こい
だからこそ、私にとって「若わかき日ひの甘酸あまずっぱい素敵すてきな思おもい出で
」なのだ。

女おんなの子こはバレンタインデーまでの準備じゅんび
をワクワクし、
ホワイトデーまでドキドキして待ま
てる！バレンタインは製菓業界せいかぎょうかいの陰謀いんぼうかも知し
れないが、すばらしいイベントである。

こんな素敵すてきな思おもい出でをくれたお菓子業界かしぎょうかいに感謝かんしゃ
したいくら
いだ。

「先輩せんぱい、こんな感かん
じでいいですかねぇ？」あ、そうか。

数十年後すうじゅっねんごの私わたしは、会社かいしゃの同僚どうりょうや後輩こうはいと一緒いっしょに、部署ぶしょ
の
男性陣だんせいじんに配くばるチョコを買かいに来き
ているのであった。

「このく
らいの値段ねだんのチョコを買かえば、来月らいげつのお返かえし期待きたい
できるかも
ね」などと打算的ださんてきにチョコを購入こうにゅうしていく。

義理ぎり
チョコこ
そ、まさに製菓業界せいかぎょうかいの狙ねらい通どおりなのかも知し
れないけど、チョ
コを上あげることでおじさま方かたはちょっと喜よろこ
んでくれるし、職場しょくばの雰囲気ふんいきがちょっとでも和なご
んだりするので、それはそれ
でいいと思おも
うのだ。

やっぱりバレンタインは素敵すてき
なイベントである。