俳句

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●春編

菜畑に花見顔(はなみがお)なる雀かな(松尾芭蕉)

椿落ちて昨日の雨をこぼしけり(与謝蕪村)

梅が香(か)に障子開けば月夜かな(小林一茶)

猫逃げて梅ゆすりけり朧(おぼろ)月(池西言水)

銭湯で上野の花の噂かな(正岡子規)

菜の花の中へ大きな入日(いりび)かな(夏目漱石)

水が水と歌いはじめる春になる(荻原井泉水)

うららかや猫にものいふ妻のこえ(日野草城)

たんぽぽの皆上向きて正午なり(星野立子)

残雪のとけて流れぬ春の道(寺山修司)

●夏編

行く雲を寝ていて見るや夏座敷(志太野坡)

夏河を越すうれしさよ手に草履(与謝蕪村)

世の中の重荷おろして昼寝かな(正岡子規)

夕立が洗っていった茄子をもぐ(種田山頭火)

行水の捨てどころなき虫の声(上島鬼貫)

涼しさや投げ出す足に月の影(西村定雅)

雨蛙芭蕉にのりてそよぎけり(榎本其角)

涼風(すずかぜ)や青田のうへの雲の影(森川許六)

庭石に梅雨明けの雷ひびきけり(桂信子)

猫の子に嗅(か)がれているや蝸牛(かたつむり)(椎本才麿)蟹死にて仰向く海の底の墓(西東三鬼)

やがて死ぬけしきは見えずせみの声(松尾芭蕉)

生きのびてまた夏草の目にしみる(徳田秋声)

夏山や一足づつに海見ゆる(小林一茶)

●秋編

温泉の底に我が足見ゆるけさの秋(与謝蕪村)

あさがほの裏を見せけり風の秋(森川許六)

しみじみと日を吸ふ柿の静かな(前田普羅)

蜻蛉(とんぼ)が淋しい机にとまりに来てくれた(尾崎放哉)人もなし駄菓子の上の秋の蝿(正岡子規)

柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺(正岡子規)

生きて仰ぐ空の高さよ赤とんぼ(夏目漱石)

山は暮れて野は黄昏の薄(すすき)哉(与謝蕪村)

落穂拾ひ日あたる方へあゆみ行く(与謝蕪村)

稲かけて里静かなり後の月(大島蓼太、りょうた)

顔見えぬまで話し居り秋の暮(篠原温亭)

人かへる花火のあとの暗き哉(正岡子規)

虫の中に寝てしまひたる小村かな(青木月斗:げっと)名月や池をめぐりて夜もすがら(松尾芭蕉)

月天心(てんしん)貧しき町を通りけり(与謝蕪村)

こんなによい月を一人で見て寝る(尾崎放哉)

●冬編

正月の子供に成て見たき哉(小林一茶)

はつ日さす畳をあるく雀かな(猿左)

初日さす硯(すずり)の海に波もなし(正岡子規)

初春の二時うつ島の旅館かな(川端茅舎、ぼうしゃ)

元日暮れたり明かりしづかに灯して(尾崎放哉)

一人居や思ふ事なき三ケ日(夏目漱石)

人去って三日の夕浪しづかなり(大伴大江丸)

さらさらと竹に音あり夜の雪(正岡子規)

山寺や雪の底なる鐘の声(小林一茶)

ほこほこと朝日さしこむ火鉢かな(内藤丈草)

人間の海鼠(なまこ)となりて冬籠る(寺田寅彦)

襟巻に首引き入れて冬の月(杉山杉風)

破けたる障子貧しき寒の月(寺山修司)

瓦斯(ガス)燈に吹雪かがやく街を見たり(北原白秋)寒月や我ひとり行く橋の音(炭太祗)

初雪や小路に入る納豆売(夏目漱石)

木枯や竹にかくれてしづまりぬ(松尾芭蕉)

海に出て木枯帰るところなし(山口誓子)

雪つみて音なくなりぬ松の風(与謝蕪村)

人待つや木葉(このは)かた寄る風の道(山口素堂)

ながながと川一筋や雪の原(野沢凡兆)

咳をしても一人(尾崎放哉)

地の底に在るもろもろや春を待つ(松本たかし)

今しばししばしと被るふとん哉(小林一茶)

風邪の子の客よろこびて襖あく(星野立子)

●番外編

朝湯こんこんあふるるまんなかのわたくし(種田山頭火)墓がならんでそこまで波がおしよせて(種田山頭火)

すべてを失うた手と手が生きて握られる(荻原井泉水)島の燈台と明星といま灯りたり(荻原井泉水)

風呂は休業星がかがやく夕べの町(寺山修司)

雪薮春ああめりりくててや雪

月投涼のげし影出さすや足

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