中古文学概说

「成尋阿闍梨母集」 １０７３年ごろ成立 二巻 我が子成尋阿闍梨を思う老母の真情を述べ た歌日記風 「讃岐典侍日記」 １１１０年ごろ成立 一巻 堀川天皇、鳥羽天皇に仕えた讃岐典侍の日 記

四 随筆
随筆とは、心のおもむくままに、折々の体験、 あるいは時々の感想や思索のひとこまを書き 綴ったものである。 自由に、断片的に自己を表現する文学と言え る。 随筆という文学形態を新しく開いたのは、「枕草 子」である。
…………
二 物語・説話
１ 物語
２ 歴史物語
３ 説話
三 日記
日記は元来、貴族の男性が、備忘のために、公 の行事などを日を追って記録したものである。 漢文で書かれていて、実用性が強く、文学性 には乏しい。しかし…… 中古には、多くの日記が書かれ、その中には、豊 かな文学性を持つものが現れた。これを日記文 学という。 文学としての日記は、「土佐日記」によって成立 した。
和泉式部日記



１００８年ごろ成立 一巻 和泉式部自作説と他作説とがある。 女流歌人和泉式部と敦道親王との恋を記した日記 十ヶ月の微妙な心理を贈答歌を中心に書いている。 深刻さはないが、愛のはかなさを描いてて叙情豊かで ある。
紫式部日記
１０１０年ごろ成立 二巻 紫式部 中宮彰子のご出産を中心とした宮廷生活の詳 細の記録。後半は消息文（手紙文）で、和泉式 部・清少納言らに対する鋭い人物評も見られる。 華やかな宮廷生活の描写の中に、自分を見つ める内省的な性格や孤独の思いが窺われる。


② 三代集（勅撰集）
１ 「古今和歌集」 ２ 「後撰和歌集」 951年 村上天皇の勅命に より ３ 「拾遺和歌集」 11世紀初め

③ 八代集（勅撰集）



１ ２ ３ ４ ５ ６ ７ ８
「古今和歌集」 「後撰和歌集」 「拾遺和歌集」 「後拾遺集」 「金葉集」 「詞花集」 「千載集」 「新古今集」 中世
第三期 撰者の時代


905年ごろまで [古今集]の歌風を代表する。 貴族的で、優美繊細の題材を取り上げ、それをそのまま 読むのではなく、趣向を凝らして、理知的に読んでいる。 そのため、生の感動に乏しく、言葉の遊びのような傾向 も見られる。 リズムはなだらかな七五調、三句切れの歌が多い。技巧 的で複雑な表現をしている。 例： さつきまつ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞす る ――（よみびとしらず 巻３） 訳文： 五月になって花の咲く橘の香りを嗅いだとこ ろ、昔なじみの人の袖の香りがすることだ。


作者独特の鋭敏な感覚と観察力、感傷におぼ れない客観性、新鮮で印象的描写、簡潔で気 品のある文体によって、自然や人間の断面を 的確にとらえている。 明るく若々しい「をかし」の美が基調となって、 中古文学の中で独自の高さを持つ。

「源氏物語」と「枕草子」の比較
「源氏物語」 「枕草子」
作者・ １００５年までに一部成立 ９９６年以後に成立 成立 紫式部 清少納言 内容 ５４巻の長編物語 自然や人生について 虚構を通して貴族社会の の感想、宮廷生活の 回想を集めたもの 理想と現実を描く 特色 深い思索・内省的態度・ 鋭い感覚・客観的態 深刻な人生批判・流麗繊 度・印象鮮明な描写・ 細の文体 簡潔で気品ある文体 「もののあはれ」 「をかし」 意義 先行文学を総合した最高 随筆0巻 淳和天皇の勅命で、良 岑安世らが編集 主な作者： 嵯峨天皇、淡海三船、 空海、安倍仲麻呂、石 上宅嗣、小野篁ら
② 「本朝文粋」



11世紀半ば成立 14巻 藤原明衡撰 中古初期以来の、漢詩文４２７編を文体別に集録して いる。 中古漢詩文の粋を見ることができる。
２ 和歌
中古初期は、漢詩文が盛んに作られた。和歌 は男女間で私的に交わされる贈答歌として読 まれ、宮廷などの公の場で読まれることはな かった。 9世紀後半から、国風文化への関心も高まり、 仮名文字が発達し、和歌は再び盛んになった。

① 「古今和歌集」（勅撰集）


905年、醍醐天皇の勅命によって、撰進された最初の 勅撰和歌集 20巻 撰者： 紀貫之、 紀友則、 凡河内躬恒、壬生忠岑 [万葉集]以後当時までの約１５０年間の歌、千百余首 を選び収めている。 歌は春・夏・秋・冬・賀・離別・覊旅・恋・哀傷・雑などの 部立によって整然と分類され、後の勅撰集の模範と なった。 仮名と真名の序があり、紀貫之の記した仮名序は優 れた歌論として注目されている。 作歌年代・歌風から、読み人しらず・六歌仙・撰者の時 代の三期に分けて考えられる。
中古文学
中古文学の時代背景：貴族の時代





①上代半ばから公地公民制は崩れかけて、９世紀後、貴 族たちの荘園が増え、天皇を中心とした律令政治は急速 に崩壊し、貴族の時代を迎えた。 ②ことに藤原氏は、荘園経済を基盤とし、他氏排斥や外戚 政策によって着実に勢力を伸ばしていった。９世紀中ごろ に、藤原良房が摂政となり、ここに摂関政治への道を開け た。 ③11世紀初めには、藤原氏は栄華を極め、文学の世界も 貴族文学の最盛期を迎える。 ④11世紀後半には、摂関政治は無力化し、院政が始めら れた。 ⑤院政も間も無く衰え、大きな社会勢力となってきた武士 階級が政権を得て、ここに貴族の時代は終末を告げた。

「梁塵秘抄」 １１６９年ごろ成立 ２０巻 後白河法皇撰の歌謡集 中古末期に大流行した 今様などの歌謡を集大成 したもの
中古の主な歌謡
名 神楽歌 称 神前で奏 特 された神 色 楽（歌を 伴う舞） の歌 東遊歌 神前で 奏され た舞楽 の歌。も とは東 国の歌 謡 催馬 風俗 朗詠 楽 歌 貴族 の遊 宴歌 謡 貴族 の遊 宴歌 謡 詩歌の 佳句に 曲節を つけて 歌うも の 今様 当世風 の歌謡。 遊女が 歌い貴 族間に 大流行
一 詩歌
１ 漢詩文 中古初期は、唐風文化を取り入れようとした宮 廷社会の意向を反映して、漢詩文が盛んに作 られた。唐風謳歌時代とも国風暗黒時代とも言 われている。 10世紀ごろから、唐風文化が衰えて国風文化 が盛んになるにつれ、漢詩文も衰えた。
① 三つの勅撰漢詩集


「凌雲集」 最初の勅撰 漢詩集 814年成立 １巻 嵯峨天皇の勅命で、 小野岑守らが編集 格調が高く華麗な詩 が多い 「文華秀麗集」 818年成立 3巻 嵯峨天皇の勅命で、藤 原冬嗣らが編集
３ 歌合
歌人が一堂集まって左右に分かれ、決められ た題のもとによんだ歌を、互いに比較して優劣 を決め、それを総合して左右各群の勝負を争う 集団文学遊戯。 ９世紀中ごろ、貴族の間で始まり、社交行事と して華やかに開催された。

４ 歌論

「歌経標式」 「古今和歌集」仮名序 「新撰髄脳」中古中期の歌論を代表 １０４１年以前成立 藤原公任の歌論書 歌の本質・作法・短歌論 からなる。 [心ふかく姿きよげに心 をかしき」歌を理想として いる。
第一期 読み人しらずの時代



849年ごろまで 「万葉集」の面影が残っていて、素直で素朴な五七調 の歌が多い。 例： さつきまつ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞ する ――（よみびとしらず 巻三） 訳文： 五月になって花の咲く橘の香りを嗅いだと ころ、昔なじみの人の袖の香りがすることだ。
第二期 六歌仙の時代
中古文学ー「もののあはれ」の文学 ７９４年 ー １１９２年 (平安京遷都)ー（鎌倉幕府の成立）
劉素桂 2010／4／16


① 時代区分 ７９４年(平安京遷都) ーー１１９２年（鎌倉幕府の成立） ②時代背景 貴族の時代 ③「もののあはれ」の文学 A詩歌：漢詩文 「凌雲集」 「文華秀麗集」「経国集」など 和歌 「古今和歌集」 三代集 八代集など 歌謡 「和漢朗詠集」「梁塵秘抄」など B物語・説話：物語 「竹取物語」「源氏物語」など 歴史物語 「栄華物語」「大鏡」など 説話 「日本霊異記」「今昔物語集」など C日記・随筆：日記 「土佐日記」「蜻蛉日記」など 随筆 「枕草子」 ⑤文学理念 「もののあはれ」 と 「をかし」

「枕草子」
９９６年以後成立 清少納言 最初の随筆で、平安女流文学の代表的傑作。 約３００段からなる 類集的章段、日記（回想）的章段、随筆的章段 の三つに分けられる。

類集的章段には、「山は」「鳥は」などで始まる「も のはづけ」と、「めでたきもの」「すさまじきもの」など で始まる「ものづくし」とがある。どちらも見出しの下 に、それに一括できるものを列挙していて、作者の 美的世界を分類したものといえる。 日記（回想）的章段は、中宮定子を中心とした華や かな宮廷生活の回想で、作者の機知に富んだ言 動が見られる。 随筆的章段は、「春はあけぼの」のように、自然や 人間についての感想を自由に書き綴ったものであ る。




8９０年ごろまで 僧正遍照、在原業平、文屋康秀、喜撰法師、小野小町、 大友黒主ら六歌仙が活躍 みずみずしい感動を技巧的によんだ七五調の歌が多 い。（＊三句切・縁語・掛詞） 例： ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散 るらむ ――（紀友則 巻二） 訳文： 日の光ののどかな春の日に、どうして落ち 着いた心もなく桜の花が散っているのだろうか。

更級日記

１０６０年ごろ成立 一巻 菅原孝標の女 ４０年にわたる半生を回想して書いた自伝的な日 記 「更級日記」は、１３歳のときの上総から上京する 紀行、物語の世界への憧れ、宮仕え、結婚、夫と の死別、信仰などを主な内容としている。 浪漫的な一女性が、現実の生活に幻滅して、信仰 の世界に救いを見いだしてゆく魂の遍歴が描かれ、 清純な浪漫精神と感傷的な気分とが溢れている。
④ 私家集